今年、僕の菜園にはシソが育たなかった。
正確に言うと、赤ジソはものすごい勢いで芽を出し育った。が、青ジソつまり大葉が全く芽を出さなかった。
青ジソは菜園の場所を変えたり、プランターを持ち出したりして何度も種をまいたものの、一切芽を出さなかった。
おそらく種が古くなったのだろうと思う。
今年は大葉は無し、と諦めた8月末、ロンドンからの客人がシソの種をお土産として持ってきてくれた。
なんとロンドンの種物商から通販で手に入れたのだという。さすがは世界一のグローバル都市ロンドン!
イタリアでは、僕が知る限り、シソの種どころか、スーパーで普通に売っている白菜や大根や生姜などの種も手に入らない。
僕は生姜は栽培しないが、白菜、大根、春菊、チンゲンサイ、ごぼう、ネギ、シソなどの日本(&中国)野菜を、イタリアのそれと共に菜園で作る。
それらの野菜の種は帰国するたびに購入してイタリアに持ち帰る。そのうちのシソの種が駄目になっていたのだ。
客人からありがたくいただいたシソの種は、来年に向けて保存することにした。が、屋内で育ててみようと思い直して、9月初めに少し取り出してプランターに撒いた。
日ごとに弱くなる日差しを捉えるためにプランターを移動し続けたり、夜は屋内に取り込むなど、懸命に世話をしたら芽が出て、ゆるゆると育ち始めた。
写真は今日(10月31日)のプランターのシソたち。
ところでなぜ僕が来年の春を待ちきれずに無理やり9月にシソの種を蒔いたのかというと、12月のクリスマスシーズンを思って心が躍ったからである。
友人らを招いて食事会をする際や家族そろっての食事などで、刺身を振舞うとき、大葉をツマにしようと思いついたのだ。
僕は以前から自分で釣った魚や漁師から譲り受ける魚など、鮮度が間違いないものに限ってよく刺身をこしらえてきた。
最近は市販の魚も利用する。イタリア人が刺身の旨さに気づいたおかげで、スーパー内の大きな魚屋などでも新鮮な魚が手に入るようになったのだ。
それが昂じて僕は最近は寿司を握ったりもするようになった。
僕は刺身や寿司を提供する際、わさびに加えて大葉もツマとしてよく食卓に置く。それは刺身好きの者はもちろん、刺身を初めて食する者にも大人気だ。
だが大葉は、9月頃までしか食べられない。その後、短い花の季節を経て、10月終わりの今の時期までには多くが枯れ果てる。クリスマスの頃には大葉はもうどこにもないのだ。
そこで僕は屋内での大葉の栽培を思いついた。それはどうやらうまくいきそうな勢いだ。大きく育つことはないだろうが、クリスマス前に開く食事会などで家族や友人をもてなすにはきっと十分だ。
それにしても懸命にシソの世話をしながら思うのは、日本食のグローバル化が一気に進んだ昨今の世界の面白さである。
シソなどというマイナーな香辛野菜の種がロンドンの店先に並ぶのは、同地が世界一の国際都市、という事実を差し引いて考えても、ひとえに日本食がグローバル化したのが原因だ。僕はそこに深い感慨を覚える。
さらにその上に、ロンドン(英国)で採れたシソの種を、イタリアのミラノ近辺で僕がこうして当たり前のように栽培しているのも、やはり日本食の国際化が進んだおかげだと気づいて、僕はさらに嬉しく楽しくおいしく思うのである。