伝説によると「永遠の都」ローマは紀元前753年4月21日に誕生した。今から2770年前のことだ。つまり今日(2017年4月28日)現在、ローマ市の年齢は2770歳と7日になる。
ローマを建設したのは、ギリシャ神話の英雄アイネイアスの子孫で、オオカミに育てられた双子の兄弟ロームルスとレムス。2人はローマの建設場所を巡って争い、ロームルスがレムスを殺害する。
造られた街は、勝ったロームルスにあやかってローマと名付けられた。その後ロームルスは初代のローマ王となり、王政ローマはロームルス以降7代に渡って続いた。
ローマ帝国の首都だった街にまつわる逸話はそれこそ数え切れないほどあるが、2770歳を記念して最近のエピソードに絡ませ、思いつくままに幾つか書いておくことにした。
現在のローマ(都市)の人口は 290万人弱。古代でも同都市の人口は100万人を越えていて欧州一の大都会だった。その地位は産業革命で大発展したロンドンに抜かれる19世紀まで続いた。それでもローマは世界の文化遺産の
16%余りを有する重要都市である。
ローマの面積は約1,285 km²。多くの公園や庭園や緑地帯と郊外の農村地を合わせると、ヨーロッパで最も緑豊かな街という顔が現れる。そこは欧州最大の農業都市でもあり、農耕地の面積はおよそ52、000ヘクタール。自然保護区の面積も40、000ヘクタールに及ぶ。
ローマには3つの大学がある。そのうちのラ・サピエンツァ大学 は欧州で最も学生数が多い。ローマ大学といえば普通この大学のこと。英国のオクスフォードやケンブリッジほどの知名度はないが、欧州でも最も古い大学の一つで伝統と格式を誇る。
ローマには1年でおよそ800万人程度の観光客が世界中から訪れる。街には多くの魅惑的な観光スポットがあるが、最も訪問客が多いのがコロッセオとバチカン美術館。一年間にそれぞれ400万人余りの観光客を引き付ける。
コロッセオは剣闘士が猛獣などと戦うのをローマ市民が観て楽しんだ娯楽施設。ローマ皇帝ウェスパシアヌス(在位:69年 – 79年)の命令で紀元70年頃に建設が始まり、息子のティトゥス(在位:79年 – 81年)帝が紀元80年に完成させた。
天衣無縫な古代ローマ市民は、凄惨な殺戮の模様を楽しむばかりではなく、戦いで死んだり傷ついたりした剣闘士の血を競って買い求めた。それは健康飲料としてまた不妊治療薬としても熱く取引されたのだ。人間の血を飲むと女性は多産になると信じられ、癲癇(てんかん)にも効くと考えられていた。
コロッセオは記録に残っている大きな地震だけでも少なくとも3回の被害を受けた。しかし全体が円筒形の、力学的に安定した構造になっているために全壊することはなかった。コロッセオは古代の建築技術の粋を集めた革新的な建造物だったのだ。
2016年8月と10月の中部イタリア地震は、300人近い犠牲者のみならず建築物にも多大な被害をもたらした。その時の地震の強烈な揺れはローマにも届いて、コロッセオの外壁が剥がれ落ちるなどの損害が発生した。
残念ながらその修復は、ローマの地下鉄工事にからまる混乱に巻き込まれて、未だに成されていない。イタリアは地震の度に先進国とは思えない災難に見舞われる。日本に似た「地震大国イタリア」の問題は実は、耐震技術そのものよりも「政治の堕落」が真の、そして最大の障壁なのである。
コロッセオよりもさらに古い共和制ローマ時代の遺跡、トッレ・アルジェンティーナ広場は、古代の面影を残したまま極めて現代的な 職能 を付与されている。野良猫保護法によって猫のコロニーと定められ、250匹~300匹ほどがのんびりと生きているのだ。野良猫たちはエサを与えられ、ワクチン接種などを施されている。
コロッセオと並ぶ人気観光スポットのバチカンは、ローマ内部に存在するもう一つの街であり国家である。そこはカトリックの総本山でもあり、世界の約12億人のカトリック信者の聖地である。またバチカン市国の全体はユネスコの世界遺産に登録されている。
1年に400万人余りの訪問者があるバチカン美術館は、バチカン市国のど真ん中にあるサン・ピエトロ大聖堂に隣接している。世界最大級のその美術館は、バチカン宮殿の大部分を占めていて、ミケランジェロの「創世記」と「最後の審判」が圧倒的な美を放つ、システィーナ礼拝堂を始めとする複数の施設から成っている。
ローマは世界一噴水の多い街でもある。その数は2000余り。そのうち50は歴史的遺産と指定されている。中でも最も知られているのがトレビの泉。願いごとの成就を祈って人々が泉にコインを投げ込む。その額は一年でおよそ1億7千万円。全て慈善団体に寄付される。
「永遠の都」はヨーロッパで最も写真に撮られる土地でもある。おびただしい数の歴史文化遺産は全てがフォトジェニックだ。ローマよりも多く被写体にされる街は、世界ではニューヨ-クだけだ。しかし映画などで印象深いシーンを提供するのは、ニューヨークよりもローマの方が多いように思う。
2016年6月、ローマに史上初の女性市長が誕生した。 ローマではそれまでの過去2769年間、皇帝や執政官や独裁官やローマ教皇や元首など、男性一辺倒の支配体制が続いた。それが古来はじめて転換し、37歳のヴィルジニア・ラッジ氏が市長に当選した。それによってローマは、女性の地位向上を示す画期的な出来事をまた一つ経験した。
ローマはパリと最も長く且つ重要な姉妹都市協定を結んでいる。“ローマはパリと、パリはローマと”をスローガンにする2都市の友情は1956年に始まった。ローマはほかにも、ロンドン、東京、ニューヨーク、モスクワ、北京、カイロ等々と姉妹都市になっているが、パリほどには重要な意味を持たない。
など、など、など・・・。2770年という長い歴史を刻んできた「永遠の都」ローマにまつわる、逸話や事件や出来事や騒動や異変や事象は、冒頭でも断ったように数え切れないほどある。それらは尽きることなく生まれて、今も生まれ続け、将来も生まれ続けることが確実である。