サッカー欧州選手権の第2戦で、イタリアがスイスを3-0で下して決勝トーナメント進出を決めた。
イタリアは2006年のW杯制覇で燃え尽き症候群におちいって不調になった。
2012年の欧州選手権では、マリオ・バロテッリの狂い咲きの活躍もあって、もしかしてトンネルを抜け出したかも、とも見えた。
だが、それはまぐれあたりというか、フェイントというか、要するに見かけだおしだった。
イタリアが絶不調から抜け出していないことは、決勝戦でスペインに4-0の大敗を喫したことでも分かるように思う。
欧州選手権の決勝戦で出た4点差という数字は、史上初の不名誉な記録でありそれはいまも生きている。
2012年当時のイタリアチームには、超一流のテクニックを持つファンタジスタのピルロが健在だった。
ピルロに続くファンタジスタに成長するはずだったカッサーノもいた。彼と前出のバロテッリの不作が、イタリアナショナルチームの長いスランプの原因のひとつ、とさえ僕は考えている。
またイタリアは鉄壁の守備を「カテナッチョ(カンヌキ)」と揶揄されるほどに守りが固い。それでいながら大舞台の決勝戦で4点も失点するのは尋常ではなかった。
まさに危機的な状況。調子のどん底で呻吟しているのは明らかだった。
イタリアは2018年のワールドカップ予選でも敗退。1958年以来60年ぶりに本大会への出場を逃 した。
絶対絶命、という形容が大げさではないほどに凋落したイタリアチームを引き継いだのが、ロベルト・マンチーニ監督だった。
マンチーニ監督は、現役時代にはファンタジスタと呼ばれた一流選手だった。
監督になってからは、ミッドフィルダーとして培われた鋭い戦術眼を活かしてチームを指揮。次々に成功を収めた。
ファンタジスタ(想像力者)、レジスタ(創造者・監督)、フゥォリクラッセ(超一流の)などの尊称は、たとえばロベルト・バッジョやデル・ピエロ、はたまたフランチェスコ・トッティなど、ワールド・クラスのトップ選手のみに捧げられる。
マンチーニ監督も現役の頃はほぼ彼らに近い能力を持つ選手と見なされ、実際にサンプドリアというチームに史上初の優勝をもたらすなどの大きな仕事をした。
サッカー選手としての彼の力量は、繰り返すがバッジョやデルピエロにも劣らないと考えられる。だが、残念ながら人気の面では彼らに及ばなかった。
しかし、ロベルト・マンチーニにはバッジョやデルピエロをはるかに凌駕する能力があった。それが戦略眼とそれを選手に伝達するコミュニケーション力である。
だから彼は監督になり、優れた成績を残し、今後も残そうとしている。
その一方で、バッジョやデルピエロは監督にはなれなかった。彼らは監督に「ならなかった」のではなく「なれなかった」のでる。
マンチーニ監督は満を持してイタリアナショナルチームの指揮官になった。そして、すっかり零落したイタリアチームを鍛えなおした。
その結果が、2020年欧州選手権予選での10連勝であり、2018年の監督就任以来つづけている29試合連続負けなしの実績である。
マンチーニ監督は、次のウェールズ戦で勝てば30試合連続負けなしのイタリア記録に並ぶ。ここまでの戦いぶりを見れば、それは比較的たやすいことのように見える。
記録を達成することももちろん重要である。しかしマンチーニ監督とイタリアチームには、あくまでも優勝を目指してほしい。
優勝したときこそイタリアサッカーは、2006年以来つづく冬の時代を抜け出して、新たな歴史を刻み始めるに違いない。