2022年10月に政権の座に就いたイタリアのジョルジャ・メローニ首相は、極右と規定され政敵からはネオファシストとさえ呼ばれたりする存在である。
彼女は政権奪取につながった2022年の総選挙の戦いでは、ファシスト党の流れを汲む極右の顔を隠さず反移民とEU懐疑思想を旗印に激しい選挙戦を繰り広げた。
ところが政権を握るとほぼ同時に彼女は、選挙戦中の極端な主張を引っ込めて、より「穏健な極右」あるいは「急進的な右派」政治家へと変貌した。
イタリアの政治土壌にある多様性が彼女を必然的にそう仕向けた。
反移民を声高に主張してきた彼女は、移民の受け入れを問答無用に否定しているのではないことも徐々に明らかになった。
メローニ首相はイタリアの人口が急速に減少を続け、2050年には人口の3分の1を超える国民が65歳以上の高齢者になることを誰よりもよく知っている。
観光から製造業や建設業、さらには農業に至るあらゆる産業が、若い労働力を痛切に必要としている。
メローニ首相は、EU各国の経済にとって合法的移民の割り当てが大きく寄与することを認め、そう発言しまたそのように動いている。
うむを言わさぬ移民排斥ではなく、必要な移民を合法的に受け入れるとする彼女の政策は、政権内の連立相手である同盟に弱腰と非難されたりもするほどだ。
その一方でメローニ首相はことし7月、G7構成国は言うまでもなく欧州の主要国としても初めて、13年間に渡って国民を弾圧し国際社会から孤立しているシリアのアサド大統領に接近した。
彼女が持ち掛けたのは、キリスト教徒の保護とシリア難民の帰還をアサド政権側が受け入れる代わりに、独裁政権との外交正常化を促進するというものだった。
ところが隠密裏に話し合いが進んできた12月8日、アサド政権は突然崩壊した。メローニ首相は独自路線を貫こうとした賭けに負けたのである。
アサド独裁政権にアプローチするとは、アメリカや欧州諸国と距離を取ることであり、アサド政権の後ろ盾であるロシアにも接近することを意味していた。
メローニ首相はウクライナ戦争に関しては明確に反ロシアの立場を貫いている。ところがシリアを通してまさにそのロシアとも近づきになろうと画策したようなのである。
したたかな外交戦略とも言えるが、同時にメローニ首相は、トランプ次期大統領やフランスのルペン氏などとも気脈を通じている。
イーロン・マスク氏に至っては恋愛関係があるのではないか、とさえ疑われたほどの親しい間柄だ。移民排斥の急先鋒でEUの問題児とも呼ばれるハンガリーのオルバン首相も彼女の友人である。
それらの事実は、彼女が懸命に秘匿しようとし、ある程度は成功してもいるネオファシストとも規定される極右の顔をいやでも思い起こさせる。
メローニ首相の脱悪魔化が本物かどうか僕はずっと気をつけて見てきた。
そしてためらいながらも ― 先に触れたように ― 彼女はより「穏健な極右」あるいは「急進的な右派」政治家へと変貌を遂げたと考えるようにさえなった。
だが、やはり、特にアサド独裁政権に歩み寄ろうとした失策を見ると、彼女に対しては厳重な監視が続けられるべき、というのが今この時の思いである。