帰国して地方紙を読む機会が多くなっている。言うまでもなく、全国紙とは違ってローカルな話題を主に伝えるのが地方紙の面白さであり、力であり、同時に限界でもある。
限界の最たるものの一つが国際報道だ。経済的に弱小な地方紙は、ほとんどの場合海外に特派員や駐在記者を置く余裕はなく、共同通信などの通信社が配信する記事を採用している。
地方紙は海外のみならず、国内のニュースでさえ通信社の発する記事を頼みにしているケースが多い。
世界の地方紙の現実もほぼ同じだ。
ただ海外の場合、特にイタリアなど地方の多様性が盛んな国では、地方紙は独自の意見や主張を前面に押し出して、全国紙と張り合うケースが日常茶飯である。
そうしたことなども踏まえながら、旅先では僕は敢えて地方紙を手に取ってローカル色豊かな紙面を楽しむが、先日、心中に「?????」と疑問符が幾つも浮かぶ記事を見た。
共同通信発のその報告は、イスラエルが停戦合意を無視してガザ地区への攻撃を再開したことを「トランプ政権にとってウクライナ戦争の停戦交渉に加えてあらたな重圧となる事案が重なった」という趣旨の表現で記事を終えていた。
僕が「?????」となったのは、その表現があたかもイスラエルのネタニヤフ首相が「勝手に」停戦合意を破ってガザへの攻撃を再開した、というニュアンスだったからだ。
国際事情にも詳しいはずの共同通信の記者が発信した記事の内容は、彼の上司らも従って会社全体も、一様に同じ認識であることを意味していた。
だがそれはあまりにも井蛙な見解だ。今やネタニヤフ首相が、トランプ大統領の了解なしに停戦合意を破るなどはあり得ない。
攻撃再開はトランプ大統領のゴーサインを得て成されたと見るべきだ。
それどころかトランプ大統領自身が、イスラエルに攻撃再開を指示した可能性さえある。この時点では彼は、向かうところ敵なしの帝王だ。
弱体な地方紙は、国内外に強いネットワークを持つ共同通信の記事を、たとえ歪んだ内容でも受け入れざるを得なかった、ということだろう。
それもまた地方紙の限界である。もっとも記事の内容が屈折したものであることを、その新聞が気づいた上で採用したのなら、という条件付きだが。
トランプ大統領は、経済力で、ということはつまり軍事力でも、アメリカに並び追い越しそうな中国を牽制しつつ、プーチン大統領と手を組んで世界を分割統治することを目論んでいる節がある。
彼にとっては自由や民主主義などどうでも良く、ディール=取引きという「ビジネス・フェイクニュース」語を振りかざして、力を背景に相手を捻じ伏せる手法でアメリカの利益追求に没入している。
どこかで誰かが止めなければならないが、唯一の頼みである欧州でさえ米国の力には敵わない。
先の大戦で日独伊のファシズムを倒したアメリカは、事もあろうにファシスト以外の何者でもないトランプ氏を再び政権の座に据えた。
国内に対抗勢力を持たないトランプ政権は、暴走に暴走を重ねて行き着くところまで行き、かつての日独伊のように自滅することでしか目覚めない運命にあるのかもしれない。
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