イタリア、プロサッカーリーグセリエAの強豪チーム、インテルの長友選手が、昨日の試合で初ゴールを決めた直後に素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。
大観衆が見つめる檜(ひのき)舞台でチームメイトに向かって深々とお辞儀をしたのだ。それは流れるように自然な動きで、日本人らしい律儀さと仲間への敬意に溢れた、しかもユーモアたっぷりのステキな動きだった。
この上なく爽やかで楽しいスタンドプレーは、テレビや新聞で大々的に伝えられてイタリア中が湧いた。
新聞の場合は、スポーツ新聞は当たり前として、なんとイタリアきっての高級紙「コリエレ・デッラ・セーラ」までが、 “festeggiato alla giapponese日本式に祝賀”という説明文と共に、チームメイトに囲まれた長友選手が、主将のザネッティ選手に深く一礼するカラー写真を一面に大きく載せ、さらにスポーツ欄でも再び写真付きで詳しい記事を書いている。
僕は試合の中継を見、テレビニュースを見、新聞を読み漁って、それでもまだ飽きずにインターネットの動画で何度も何度も秀逸の場面を見返している。
テレビ屋の僕はイタリアのサッカーにも大きく関わってきた。僕の事務所はWOWWOWのセリエA生中継のコーディネーションを一手に引き受けていた時期がある。同時に僕はそれと連携する番組制作のディレクターとしてもロケに駈けずり回った。
長友選手はセリエAの9人目の日本人選手である。パイオニアはいわずと知れた三浦カズ選手。僕は三浦選手のデビュー戦も生中継の現場で見た。昔からサッカーが好きなことも手伝って、以来僕は公私ともにサッカーの動静を見守り続けてきた。
そのことはまたおいおい書いていこうと思うが、実は僕は最近次のような文章を新聞に寄稿したことがある。
【衛星放送で日本のプロサッカーの試合を見ていたら、得点を入れた選手が疾走しながら欧米人並みに拳にキスをするしぐさをした。
僕はその時、安倍元総理が、外遊先の飛行場で妻と手をつないでタラップを降りる姿を見たときと同じくらい気恥ずかしい思いをした。
どちらも普段やらないことをパフォーマンスでやっているところが見苦しい。
拳にキスをしたJリーガーの男は、欧米の選手は結婚指輪に口づけをして妻に感謝を捧げているということを知っているのだろうか?
意味は分からないが、選手の動きがカッコいい、という理由だけであのしぐさを真似ているように見える。
たとえ意味を理解して指輪にキスをしていたとしても、僕はやっぱりあのアクションは見るに堪えないものに感じる。なぜなら、それは日本人の自然な動きではないからだ。
妻への感謝を表すときに結婚指輪に接吻をするなんて、いったいどこの日本人だと思ってしまうのだ。
元首相の安倍さんが、奥さんと手をつないで飛行機を降りたのは、ブッシュ大統領や英国のブレア前首相あたりを真似ていたのだろうが、彼は普段から欧米人のように公衆の面前で奥さんを抱きしめ、手をつないで町を歩き、ほっぺたにチュー、としたりするのだろうか?
そうした欧米の慣習があって、はじめて拳へのキスや大舞台での夫婦の手つなぎが自然になり、絵になる。
今のところ日本人はそうしないことが自然で美しいと僕は思うが、どうだろうか】
長友選手のお辞儀パフォーマンスは、僕がそこで見たこととはまったく逆の、完璧な自然体の、明るく美しい日本人の姿だった。
堅苦しくて面白くない、と敬遠されることも多いわれわれの低頭の習慣を、一瞬にして好ましいものに変える魔法のようなアクションだった。
僕は個人的にそれを喜ぶと同時に、長友選手の登場が、日本のサッカーレベルの高揚の証でもあると感じて、二重に喜んでいるのだ。
そのこともまた先に書いていこうと思うが、とりあえず今日あたりまでは、長友選手のパフォーマンス動画を再生して
は、また一人でニコニコ笑っていようと思う。