多国籍軍によるリビア爆撃が始まってから、東日本大震災に集中していた欧州の関心は急激に対リビア戦争に移行した。それぞれの国や社会の日々の動きや、世界情勢に流されるように内容が移行していくテレビの、特に報道の現場では仕方のないことである。というか、それがテレビに限らずメディアの宿命である。巨大な出来事である今回の東日本大震災でさえ、メディアの関心を永久に留どめておくことはできない。日本人としては内心不服だが、それが現実である。
当初、英米仏伊、カナダ、ベルギー、それにカタールの7カ国が参加した多国籍軍は、21日の時点ではスペイン、デンマーク、ギリシャなどが加わり、さらにアラブ首長国連邦も参加した。アメリカとヨーロッパの参戦国は、最近起こったイラク、アフガニスタン戦争でのアラブ諸国の反発をもっとも恐れている。従ってカタールとアラブ首長国連邦という二つのアラブ国の参戦は極めて重要な意味を持つ。
もっとも強硬に作戦を押してきたのはフランス。さらに英米と続いたが、もっとも強く作戦遂行の影響を懸念しているのはイタリアであろう。イタリアは7つの航空基地を多国籍軍に提供し且つ参加国の中では一番リビアに近く、従って報復攻撃を受けやすい。そのせいもあるだろうが、首相のベルルスコーニはカダフィ大佐との友情を慮る振りで彼の立場を心配して見せたり、イタリア空軍機はリビアに向けては一発の砲撃もしなかった、などと言い訳をしたりしている。
イタリアのジレンマはもう一つある。難民問題である。アフリカに近い南イタリアのランペドゥーサ島には、次々に難民が押し寄せている。これまではチュニジア人が主体だったが、リビアを攻撃することでイタリアは難民の数をさらに増やす手助けもすることになる。今やイタリア国内のトップニュースは、東日本大震災でもリビア戦争でもなく「難民」なのである。もっとも深刻なランペドゥーサ島には人口とほぼ同じ数の5400人が上陸して大混乱になっている。リビアに近い周辺の島々にカダフィ大佐がミサイルでも撃ちこんだら、島々はさらに大混乱になり、やがてここ北イタリアにも波及してきそうな勢いである。
ある意味では日本の震災ニュースが減るのはいいことでもある。なぜならそれは、少なくともこれまで以上の悲惨な出来事が起きていないことを物語るから。福島第一原発に重大な悪化現象が現れたりすれば別だが、イタリアでは日を追うごとに大震災への関心が無くなって行きそうな気配である。被災者と被災地の本当の戦いはこれからだが、今はイタリアのメディアが震災に
無関心になって行くことを願うばかりである。