中東危機を逃れて流入して来る難民の増大に悲鳴を上げたイタリアは、EU(欧州連合)に助けを求めたり、大部分の難民の祖国であるチュニジアに対応を求めるなどの動きを活発化させる一方で、人道的措置として今年1月1日から4月5日までの間にイタリアに上陸した難民2万人に、一律に六ヶ月間の滞在許可証を与えた。

 

そこまでは良かったのだが、滞在許可証はいわゆるシェンゲン協定に基づいてEU内を自由に移動することができる、としたためフランスやドイツを始めとする国々が難色を示して騒ぎになった。EU加盟国の多くは不法移民や不法滞在者の増大に神経を尖らせているから、フランスやドイツの反応はある意味当たり前だった。マルタを除く加盟国の全てが、イタリアの決定に反対したことを見てもそれは分かる。


EUはイタリアの滞在許可証を認めない、と正式にこの国に通告した。
 

それに対して今度はイタリアが怒った。北部同盟所属のマローニ内務大臣は、中東問題はEU全体の課題であり難民問題もそのうちの一つだ。それにも関わらずイタリアだけがひとり取り残されて難民を押し付けられるなら、EUに加盟している意味はないとして連合からの離脱をほのめかし、別の閣僚はEUと足並みをそろえて国外に派遣している兵士を召還して、難民排除のための国境警備に就かせるべきだと主張した。

 

意外に思えるかもしれないが、イタリアはアフガニスタンを筆頭にコソボ、ボスニア、イラク、レバノン、バーレーン等々、世界の 30の国と地域に軍隊を派遣している。EUが移民問題でイタリアを見捨てるなら、イタリアはEUとの協調派兵を止めるというのである。

また、別の閣僚はイタリアがリビア攻撃の多国籍軍に7つの基地を提供している事実を揚げて、
EUの態度を強く批判した。

 

再び、3月30日の記事「東日本大震災でイタリアも揺れているⅥ」でも書いたが、難民問題はイタリア一国で解決できる事案ではないので、EUの主要加盟国が動いて共同で解決に当たるだろうと僕は考えていた。でもそれはすぐには起こらず紆余曲折があるもの、とも考えた。

 

ところが驚いたことに、EUはイタリアの主張にあっけなく折れた。

 

これは恐らく、リビア攻撃を遂行している多国籍軍が、イタリアの基地を使えなくなる可能性を危惧したフランスとイギリスが中心になって、EU本部に掛け合ったのではないか。もちろんアメリカの後押しもあっただろう。

 

イタリアがEUから離脱することはまず考えられない。そんなことをしたらイタリアはヨーロッパの孤児になって破滅してしまうだろう。また東欧やアフリカや中近東などに送っている兵士を呼び戻して、難民阻止の任務を負わせる、というのも駄々っ子の主張のようにしか聞こえない。

国外の軍隊を呼び寄せて国境警備に当たらせて、常に海にこぼれ落ちそうなほどの人数の難民が乗り込んでいる船やボートに向かって、発砲しようとでも言うのだろうか。そんなことをしたら、イタリアは世界中の世論の袋だだきにあって、
EU離脱以上の破滅におちいるだろう。また、なんだかんだ言いながらも心優しいイタリア国民が、そんな蛮行を許すはずもない。

 

しかし、イタリアがほとんど無条件に受け入れている7つの基地の使用を禁止するのはどうだろうか。これなら間違いなく実現が可能だと考えられる。米英仏が中心の多国籍軍は、航空基地を失ってリビアへの軍事活動がたちまち行き詰まるだろう。

 

イタリアにとってもそれはいいことだ。なぜならリビアはイタリアのかつての植民地だ。イタリアにはそのことに対する負い目もある。またリビアのカダフィ政権が、欧米と協調する姿勢を見せて以来、両国は親密と言ってもいいくらいの良好な関係になっていた。イタリアは元々リビア攻撃には積極的ではなかったのである。

 

そうした事情を背景にして、基地を切り札に揺さぶりをかけるイタリアに、軍事行動の困難と多国籍軍内の足並みの乱れを恐れた英米仏、特にフランスが中心になって各国を説得して、EU内の素早い妥協が形成された、というあたりが真相ではないか。

イタリアという国は、ノーテンキなようでいて、意外としたたかなのである。

 

とは言うものの、難民問題がこのまますんなりと落ち着くとはとうてい考えられない。中東危機はまだ収束する気配がないし、イタリアの隣のリビアでは、内戦に加えて多国籍軍の爆撃も続いている。難民問題は解決どころか、ますます混迷の度を深めていくのではないか、と僕は思う。