忙中閑あり。

 

今日はいよいよコンサート当日。朝6時に起き出して仕事場に入る。ブドウ園に面した窓を開けると、冷たい空気がさっと吹き込んできた。

 

金曜日の夜中に強い雷雨があった。おかげで空気が澄んで朝晩はひんやりしている。日中は少し夏らしくなって気温は上昇するが、本格的なイタリアの夏はまだ先である。

 

昨年の今頃は雨が降って結構寒かった。7月にはすさまじい勢いで雹(ひょう)が降ったりもした。僕の小さな菜園は完全に破壊され、ブドウ園にも大きな被害が出た。イタリアの天気はとても荒々しく男性的である。

 

窓からブドウ園を見下ろした。いつも草を食(は)んでいる二匹のウサギの姿が見えない<東日本大震災でイタリアも揺れているⅧ>。どうやら今日のコンサート会場になる中庭に移動したらしい。

 

中庭とブドウ園はワイナリーの木製の大きな扉越しに繋がっている。年代物の扉にはそこかしこに穴が開いていて、二匹はそこから自由に内と外を行き来して過ごしているのだ。

 

ほぼ二ヶ月前にわが家にやって来た二匹のウサギは、思い切り草を食み続けてすっかり大きくなった。今では行動範囲もかなり増して、二匹は相当に広い敷地内とブドウ園を我が物顔で探索したりしている。

 


ウサギの飼い主の農夫には二匹を捕らえないように伝えた。彼らはウサギが成長したら捕獲して食べるつもりだったから、不満気な顔をしたが最後は納得した。

今では二匹はすっかりわが家の家族の一員なのだ。あまり家には寄り付かない、ちょっと放浪癖のある家族・・

 

夕方6時から始まるコンサートに二匹も参加してくれないものか、と僕はひそかに期待している。

 

玉砂利が敷き詰められた中庭には芝も木々もある。二匹は普段は芝の上で寝転がったり、食事をしたり、木々の下でかくれんぼをしたりして気ままに過ごしている。

 

今日のコンサートでは観客席は玉砂利の上に椅子を並べて作る。二匹がいつも遊んでいる芝上や木下は空き間である。

 

それなので二匹がそこに陣取って、聴衆と共にコンサートに耳を傾ける振りをしてくれたらどんなに楽しいだろうか、と想像をたくましくしているのである。

草を食むのに夢中でも、かくれんぼに熱中していてもいい。二匹がそこにいてくれれば、聴衆はきっと癒されて、コンサートがさらに盛り上がるに違いない・・