そうは言うものの、できれば食事時間を短く、デザートもほどほどにして仕事にまい進しよう!などというのは、実はディレクターである僕の勝手な言い分である。

ドキュメンタリーに限らず、映画やテレビの撮影の仕事というのは、いつも大変な肉体労働である。肉体的にキツイという意味では、それこそ道路工事や建設現場の重労働と少しもかわらないところがあるのだ。

仕事場の責任者が’監督’と呼ばれるところも共通している。いや、時間が不規則でかつ長時間の拘束になったりすることを考えると、むしろ工事現場の労働よりも辛い、と言い切っても良いかもしれない。

そういう飛んでもない仕事なので、スタッフが休めるときに休んでおきたい、という気持ちになるのも仕方のないことである・・・と僕はときどき部下をいたわる良いボスを気取って思ったりすることもないではない。

 

実際に、イギリスと日本とアメリカで同じ状況に置かれていた時は、僕はそういうヨイボスであったのだ。

しかしイタリアではそうはいかない。そんな甘いことを 口に出した日には、彼らウラヤマシクもイラダタシイ怠け者たちは、いつまでたっても食べることを止めようとはしないのだ!

 

 

イタリアの食事のフルコースは、先ずアペリティブ(食前酒)に始まる。このアペリティブは、いわゆるカクテルの類の軽い酒である。それを飲み終わってから出てくるのが、アンティパスト(前菜)である。このあたりでワインも注文する。ワインを頼んだらミネラルウォターも同時に持ってきてもらうのがふつうである。

アンティパストは、サラミや生ハムや魚介の酢の物や各種の揚げ物などが、一種類か又は盛り合わせになって出てくる。

その次にプリモ(ファーストコース)を食べる。プリモは九割方がスパゲッティーやマカロニなどの、いわゆるパスタである。もちろんここではパスタの代わりにスープ類をたのんでもかまわない。

プリモを食べ終わったところで、ようやくセコンド(メインコース)の登場となる。セコンドはその時どきの食事のハイライトだから、ボリュームたっぷりの肉料理か魚料理になるのが常道である。

 

セコンドの主料理には、コントルノ(付け合わせ)の一品をあわせて頼むことが多い。コントルノはサラダや野菜の煮たものになるのがふつうである。

セコンドにつづいて食べるのが、いわずと知れたデザートである。アイスクリームやケーキにはじまるデザートは、非常に種類が豊富で、選ぶのにも見ていていらいらするくらいに時間がかかることは既に述べた。このデザートの代わりに新鮮なフルーツを食べる人もいる。

デザートやフルーツを食べ終わるころには、ワインの何本かが既に飲みつくされている。そこでアルコール度の強いディジェスティボ(食後酒)が登場し、それを飲み終わったら、仕上げとしてタールのように濃いエスプレッソコーヒーを飲むのである。そこでようやく食事の全行程が終わる。

それらの飲食物が、いっぺんにではなく順を追って出てくるから、それだけでも時間がかかる。加えて、彼らの食べ方がまたのんびりしているために、食事にはいつもおそろしく時間がかかってしまうのだ。

食べ方がのんびりしているというのは、イタリア人が牛のように食べ物をゆっくりと咀嚼(そしゃく)するということではない。彼らは食事の間じゅう片時も休むことなく会話をしつづけるのである。

何度も言うようだが、一口食べてはしゃべってはしゃべってはしゃべり、もう一口食べて、しゃべってはしゃべってはしゃべってはしゃべっては又しゃべってはしゃべる、というのがイタリア人の食事の仕方だ。

イタリア人が一食ごとにボーダイな量の食べ物を平らげることができるのは、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃしゃべりつづける間に、つぎつぎに食べ物を消化していくからではないか、と僕は疑っている。

 

(つづく)