3週間前の日曜日に続いて、昨日(8月7日)もまたガルダ湖畔の伯爵家でコンサートがあった。趣旨は前回とまったく同じ。
→<ノブレス・オブリージュ>
コンサート開始時間や場所もほぼ同じだが、会場に関しては、今回は初めから前庭ではなく大広間での開催が決まっていた。バイオリン、チェロ、ハープの演奏なので、音響の良い元舞踏会場の大広間で、ということになっていたのである。
今回もまた雨に降られた。主催者の中に雨男か雨女でもいるのだろうか。良く雨に降られる。
僕は昼間は自宅で仕事をした後、夕方湖の館に移動した。コンサートやその他の用事で、ここ一週間ほどは伯爵家に行きっぱなしの妻と合流。大学生の2人の息子も彼女連れで館にいた。夏休みなのだ。
仕事が詰まっているので、今回は音楽会には顔を出さないでおこうかとも考えたが、やはり参加することにした。理由があった。
僕は前回のコンサートにエジプト人の若者たちを招待した。彼らは伯爵家のある湖畔の町でイタリア語を勉強していた。ミラノ大学が毎年夏に期間限定でイタリア語講座を開いていて、世界中から生徒がやって来るのである。そこでは日本からの学生もけっこう見かける。
エジプト人の若者たちは、友好親善の一環としてアルピーニの集会に招待されていた。僕はそこで彼らに会って、夜のコンサートにもぜひどうぞ、と招待した。<ノブレス・オブリージュ>
アルピーニの集会場で若者たちを見かけたとき、僕は彼らに強い好奇心を抱いた。男子学生がジーンズにTシャツなど、イタリア人と何も変わらない服装をしているのに対して、女子学生がイスラム教徒のベール「ヒジャブ」を着用していたからである。
やはりイスラム女性が用いるベールのブルカとニカブは、公式の場での着用がフランスとベルギーで正式に禁止され、イタリアでもそれに近い法案が提出されたりして、アラブ文化への風当たりが強くなっている。
加えてチュニジア、リビア、エジプト、シリア、イエメン、バーレーンなどなどで進行する反乱や暴動の中東危機。それは王族支配体制が巨岩よりも堅牢に見えたサウジアラビアにまで広がる気配を見せている。そして9.11アメリカ同時多発テロ事件以来さらに強まった、欧米社会のイスラム教徒やアラブ国家への猜疑心。
そうしたもろもろの状況に加えて、個人的には僕はリビア人の友人ムフタ君との連絡が取れないことへの気がかりも強い。
→<イタリアVS砂漠の猛獣Ⅱ>
僕はエジプト人の若者たちに話しかけた。そのあと昼食をまじえて歓談した。アルピーニの集会では、いつもバーベキュー形式の食事が供されるのである。
彼らはごく普通の明るい若者たちだった。僕はもっともっと彼らと友達になりたかった。そこでその晩のコンサートに招待した。
ところが会場の手違いで若者たちが一人を除いて入場を拒否されてしまった。雨模様でコンサート会場が前庭から屋内に変更になったために、主催者側スタッフが早めに入場制限をして扉を閉めてしまった。来場者が多すぎたのである。
僕はそういうこともあろうかと思って、主催者側の責任者にエジプト人若者らには便宜を図ってくれるように頼んでいたのだが、混乱の中で入口スタッフへの引継ぎ連絡がうまく行かず、少し遅れて会場にやって来た若者らは閉め出されてしまった。
その若者たちは既に帰国した。でも大学には他の学生らが入れ違いに入学して来ると聞いた。僕は仲良くなった若者達に、彼らに続いて短期留学をする学生たちにも、遠慮なく伯爵家を訪ねるように、と話しておいた。
そんないきさつがあるので、僕はもしかするとアラブ人の若者らが昨日のコンサートに顔を出すのではないか、と思いついて湖に向かったのだった。
昨晩はそれらしい若者らは会場にはやってこなかった。
僕は少しがっかりしたが、伯爵家での催し物は9月までは続く。
もしかすると、どこかでまたアラブ人の若者らに会えるかもしれない、と僕はひそかに期待をしている・・