今年一番の自家のブドウの収穫(ヴェンデミア)は8月10日に始まった。
まず初めに僕の仕事場から見下ろす3,5ヘクタールを収穫。それは2年前、2009年春に植え替えた木の初めての実りである。
品種は白ブドウのシャルドネ。量はまだ少ない。成果が最大になるのは、植樹から4~5年後である。
全体では15,5ヘクタールある自家のブドウの収穫は、今後飛び飛びに日にちを定めて9月半ば頃まで続けられる。
今年はここまで雹(ひょう)が一切降らなかった。珍しいことである。
暑い日本とは違って、北イタリアでは大きな雹は盛夏に多く降りつける。そのためブドウ栽培者は必ず雹保険に加入している。かなりの確率で被害が発生するから、保険の掛け金も安くない。
去年(2010年)7月には、あたり一面が真っ白になるほど大量の、巨大粒の雹が降りしきった。それは雪のように積もって、翌日まで解けずに残った。
ブドウに大きな被害が出て、僕の小さな采園の野菜も完全に破壊されつくした。ナスやトマトやピーマンには大きな穴がいくつも開いた。
激しい雹はほとんどの場合「テンポラーレ」と共にやって来る。
「テンポラーレ」はイタリアの夏の風物詩。
真っ青だった空にとつぜん黒雲が湧いて稲妻が走り、突風が吹き募って雷鳴がとどろく。同時に激しい雨や雹が視界をさえぎって落下する。目をみはるような荒々しい変化である。
イタリア語で「テンポラーレ」と呼ぶこの自然現象は、日本語ではちょっと思いつかない。
驟雨とか夕立、あるいは雷雨などの言葉は弱すぎる。
「野分(のわき)」という古語もあるが「テンポラーレ」はそんな詩的な表現では言い尽くせない。
「テンポラーレ」は、しばしば雹を伴なって農作物を破壊する。
激しい雹を運んでくる猛烈な「テンポラーレ」を、僕は勝手に「豆台風」と呼んだりしているが、長い時間をかけて発達する台風とは違って「テンポラーレ」はふいに起こる現象だから、実はこの言葉もぴたりと当てはまるものではない。
今年もここまでに何度も「テンポラーレ」が発生した。でも一度も雹は降らなかった。この先はどうなるか分からないが、ブドウにも僕の采園にも被害は出ていないのである。
8月半ば頃からの「テンポラーレ」は例年、発生するたびに急速に秋を運んで来る。
季節がいつも通りなら、秋はもうすぐそこである。