今朝6時半頃、強い風の音で目が覚めた。

 

「あ、テンポラーレ(豆台風)だ」
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と思いつくやいなや、走るように急いで窓際に行った。

窓を開けようとして、思いとどまった。

 

家の全ての入り口や窓にはアラーム(盗難警報)のセンサーが設置されている。

 

アラームを解除しないでドアや窓を開けると、けたたましいサイレンの音が鳴り響き、警備会社に自動的に知らせが飛ぶ仕組みなのである。

 

アラームを解除して、もう寝室には戻らずに、自分の書斎兼仕事場に入った。

 

外はまだ真っ暗である。窓から見下ろすブドウ園には、闇の中に風のざわめきが踊り、逆巻き、鈍い光のようなものが見えてブドウの木が揺れている。

 

暗がりの中で木が見えるのは、記憶心理の単なる綾だろうと思ったその時、稲妻が走って闇の一角が輝き、激しく騒ぐブドウの枝葉が一瞬まぶしく浮かんで消えた。

 

雷鳴がつづき、さらに雨の音が聞こえた。でも雷の音も雨の音も、心なしか弱々しい。

 

エネルギーを集めて一気に放出する、夏の盛りの憤怒のようなテンポラーレとは様相が違う。

 

30分もすると空が明るんできた。雷鳴が遠のき、でも、雨は降りつづけている。

 

このまま終わるかと思ったころ、風が少し強まって、ふいに雷が近くで鳴った。雨足も速くなった。それが一気にドシャ降りに変わる。

 

空気がすっと冷たくなるのが分かった。雨が雹(ひょう)に変わる前触れである。

 

雹はブドウの大敵。でも、収穫を終えたブドウ園の木々は、少し残る緑と枯れ葉を全身に乗せて、雨に打たれて立たずんでいるだけである。

被害に遭う心配はない。

 

小さな采園のことが頭をよぎった。トマトとピーマンが少し、それに葉野菜が残っている。強い雹が降れば全滅だろう。

残念・・という思いで外の動きに目をこらした。

 

雨はなおも激しく振りつづけたが、一向に雹にはならなかった。やがて小降りになって風が弱くなり、雷鳴も遠くなった。

 

僕はほっとするような残念なような気分で窓外を見つづけている。

 

野菜に被害が出るのは悔しいが、強烈な雹も見たかったのだ。

 

僕はテンポラーレや雹や雷鳴や暴風などの、激しい気候変化が好きなのである。

 

9時になっても雨風は止まない。

雷鳴も遠くなったり近づいたりして、一向に去る気配がない。

ひと息に起こって消える、テンポラーレ独特の厚い黒雲もまだ空にある。でもその雲も夏に比べると薄いようである。

 

なにもかもが中途半端なテンポラーレ。

 

この分だと、きっと「寒くない10月」がまだ続くのだろう。

外でくすぶっている風雨が再三強まって、荒々しい本物のテンポラーレに変わり、暑気を完全に吹き飛ばさない限り・・・