先週の土曜日、ブレッシャ市近辺の貴族家の晩餐会に夫婦で招かれた。同家は当主夫妻と一男二女、それに当主の姉の6人家族。
そのうちの長女ベアトリーチェが、シチリア島のパレルモでマルトラーナ教会の修復作業にたずさわっていると知る。嬉しいサプライズ。
イタリアには、絵画を含む芸術作品や歴史的建造物あるいは調度品などの修復、改修、復元などを専門とする「修復師(restauratore)」というりっぱな仕事がある。
ベアトリーチェは、2年前に芸大の修復専門科を卒業して、修復師になった。アート好きな若者たちの憧れの職業の一つである。
マルトラーナ教会は、ファサード(正面)がバロック様式の美しい建物。サンタ・マリア・デッランミラーリオという舌をかみそうな名前でも知られる。パレルモを代表する歴史的建造物。
マルトラーナ教会のすぐ隣には、アラブのモスク風の赤い丸屋根が、鮮烈な印象を与えるサン・カタルド教会がある。二つの教会はパレルモの有名観光スポットの一つ。
サン・カタルド教会は、サン・ジョバンニ・デッリ・エレミーティ教会とともに、シチリア島が9~11世紀にかけてアラブ(ムスリム)の支配下にあったことを如実にあらわす、中東趣味のシンプルで美しい建物。アラブの好影響の一つ。
8月のシチリア旅行ではもちろんパレルモにも寄った。マルトラーナ教会にも寄った。僕は何度も訪れてドキュメンタリーの撮影もしている。が、妻にもまた友人夫婦にとっても初めての場所だった。皆が当然写真撮影をしたがった。
ところがマルトラーナ教会は修復中で、周りが工事の枠組みに覆われていて何も見えなかった。残念だがイタリアでは良くあること。隣のサン・カタルド教会だけを写真に収めた。
「そうか、ベア(ベアトリーチェの愛称)が僕らの写真撮影のジャマをしていたのか」
僕は笑ってべアトリーチェを責めた。
「ごめんなさい。そうなの。よく言われるの。修復工事の骨組みが見物のジャマだって」
ベアトチリーチェも笑いながら、でも本気で申し訳なく思っていることが分かる、曇りのない目色で応えた。
彼女は翌日の日曜日には再びパレルモに戻った。少なくとも今年いっぱいは向こうに滞在して修複作業に従事するという。
僕は若いベアトリーチェが、仕事を通してシチリア島の豊富な芸術や歴史や文化に触れると共に、マフィア問題のような島の暗部にも恐れることなく、正直に、そして堂々と対面して自分を磨き成長していってほしいと願い、また彼女にもはっきりとそう話した。
シチリアの話になると、どうも僕はいつも気負った感じになるようだ。ベアはおどろいてしまったかも・・
でも、彼女は子供のころから芸術好きで利発で冒険心の強い娘だ。きっと僕の言う意味を理解してくれたに違いない・・