カダフィ大佐と息子のムタシムの拘束、殺害にまつわる生々しい映像が世界中を駆け巡り、その是非について喧喧囂囂(けんけんごうごう)の議論が逆巻く中、リビアの反カダフィ派・国民評議会は、10月23日、東部拠点のベンガジで祝賀式典を開き、全土の解放を宣言した。

 

カダフィ後のリビアの国づくりは、順調にいけば国民評議会を中心にして進み、それは多くのメディアや人々によって格調高く語られていくだろう。

 

僕もリビアにはずっと関心を払っていくつもりだが、ちょっとしたゴシップ調の視点も忘れずに見ていこうと思う。もはやこの世にはいない大佐だが、醜聞まみれの独裁者とその家族の動向は、今後のリビアを語る上でも欠かせない要素のように見える。

特に石油マネーを主体とする莫大な国の資産を、家族総出でせっせと盗み続けた実態を検証するのは、かなり重要なことなのではないか。

 

カダフィ大佐の5男(腹違いの長男から数えて)ムタシムが拘束されたらしい、という情報が流れて一週間が過ぎた10月20日、彼は父親と共に殺害された。

 

ムタシムは元国家安全保障局のボスとか同補佐官などと言われてきたが、要するにリビア秘密警察の最高権力者ということだったのだろう。つまり、リビア民衆を徹底弾圧した現場責任者。最も恐(こわ)持ての男。

 

それでいながら彼は、パーティーや乱痴気騒ぎが大好きなプレイボーイでもあったらしい。

 

ムタシムはカリブ海の島で贅沢三昧の年越しパーティーを開き、アメリカの歌手のビヨンセやアッシャーなどの著名人を招いてドンちゃん騒ぎをやらかしたかと思うと、プライベートジェットで乗り込んだロンドンやパリの一流ホテルの何階かを借り切って、世界中から友人を招待して宿泊させ、連日パーティーを開くなどなど、贅の限りを尽してきた。

 

彼はリビア国営石油会社におよそ1000億円を無心したことさえあるらしい。

 

2004年、ムタシムはイタリアのナイトクラブでオランダ人スーパーモデルのタリタ・ヴァン・ゾンと出会い恋に落ちた。

 

彼はいつもたくさんの豪華な贈り物でタリタを喜ばせた。ルイ・ヴィトンのバッグの全コレクションを彼女の部屋に送り届けたこともある。その時のタリタの部屋は足の踏み場もなかったという。

 

タリタ・ヴァン・ゾンはある日ムタシムに聞いた。

「あなたは一体幾らぐらい小遣いがあるの?」

するとムシタムはしばらく考えてから言った。

「約200万ドル(1ドル=110円で2億2千万円。現在の異常な円高レートでは約1億6千万円)」

「1年で?」

すると彼は事もなげに返した。

「いや。1ヵ月で」

 

・・・独裁者の放蕩息子は一体どれだけの金をリビアから持ち出し、外国の金融機関にプールしたのだろうか。本人死亡後の今は解明するのが難しいかもしれない。

 

ムタシムのすぐ上の兄、ハンニバルは母親と共にアルジェリアに逃亡したと考えられているが、彼はリビアを出国する前に、
1800万ユーロ(約20億円)をチュニジア、フランス、パナマなどの口座に分散、送金したことが分かっている。

 

像に乗ってアルプス山脈を超えて、ローマ帝国に攻め入った古代の英雄・ハンニバルと同じ名前を持つ独裁者の息子は、暴力的な性格でしばしば問題を起してはメディアを賑わせてきた。

 

例えば2001年には、ローマのディスコの出口で警察官を消火器で殴って、イタリア中を唖然とさせた。また2004年には、パリのシャンゼリゼ通りを時速140キロの車で走行して世界を驚かせた。さらに2008年、ジュネーブのホテルで妻と共に従業員に暴行を働き、逮捕。これに対抗して親バカのカダフィは、リビア在のスイス人ビジネスマンを逮捕して、スイス政府にプレッシャーをかけた。もっと言えば、彼の妻のアリネはベビーシッターへの拷問や暴力行為を日常茶飯に行ってきたらしい。

 

ハンニバルと妻子は、彼の母親と共にアルジェリアにいることが分かっているが、母親や亡父とは別に蓄えた彼の資産額は、20億円以外には今のところは明らかになっていない。しかし、叩けばさらにホコリが出るであろうことは衆目の一致するところである。

 

父親と弟が殺害された同じ日に、シルトで拘束されたと伝えられた次男のサイフ・アルイスラムはどうやら逃亡したらしい。彼もまた、独自に南アフリカ、エジプト、アルジェリア、ウクライナなどのタックスヘイブン(税金天国)国、あるいは大金を持ち込む者の素性や理由を詮索しない国々などに、莫大な資金を隠しているとされる。

 

イタリアのプロサッカーリーグ・セリエAでプレーしたこともある3男のサーディは9月6日、車両250台を連ねてリビア南の国境線を越えニジェールへ。同国大統領府近くの、広大な庭園・プール付きの「緑の家」で豪華な逃亡生活を送っている。彼が盗み出した資産もまた、極大の額であろうことは子供でも予測できるところではないか。

 

死んだ大佐を除けば、個人資産に関する家族の圧巻は、アルジェリア滞在中の大佐の妻のサフィヤ(Safiya)。彼女はなんと日本円で約2兆3千億円(210億ユーロ)にも登る個人資産を蓄えていて、それを全てリビアから持ち出したと考えられている。2人の息子と一人娘のアイシャ、及びその家族、従者らを含めた総勢
30人ほどと共に、隣国の首都でこれまた豪勢な逃亡生活をしている。

 

そのほか、リビア危機の初期段階にはトリポリのカダフィ金庫に100億ドル(8千億~1兆円)相当の金塊があった。またそれとは別にカダフィ一族が自由に使える金は約5兆円あった、などなどの憶測が飛び交ったが、家族の個人資産とは別に、カダフィ大佐がリビア国外に持ち出した金は、全体で20兆円を越えるとも見られている。

 

憶測や想像や噂話をさておいても、40年以上に渡ってリビアを牛耳り、国家資産をほぼ独占してきた独裁者とその家族の違法な富が、天文学的数字になるであろうことは疑いないことのように見える。

 

それらの富が国外に持ち出されて、独裁者の家族によって勝手に浪費されることは、失業率が40%を越え国民の大多数が1日2ドル(200円弱)での生活を強いられているリビアではなくても、決して許されるべきことではない。

 

独裁者一族が盗んだ金を取り戻して、リビアの今後の国づくりの資本に充(あ)てることも、民主化を進める同国の指導者たちの重大な仕事の一つであろう。