イタリア、ベルルスコーニ首相が11月8日、現在国会で審議中の新予算関連法案が成立したあとに辞任すると発表した。

 

また辞任後に総選挙があっても、自分は立候補しないとも述べた。

 

もしそれが本当なら、1994年以来17年間に渡って、イタリア政界を牛耳ってきた男が表舞台から去ることになる。

 

ベルルコーニは土建屋から身を立てて、メディア王として大成功を収めたのち、1994年に政治家に転進した。

 

その頃の彼は、自信にあふれたさわやかな笑顔を持つ、イタリア語でいう「シンパーティコ(親しみやすい、面白い)」そのものの人物のように僕には見えた。

 

同年の選挙で実際に政権の座に着いたときは、コミュニケーション(対話)能力に長(た)けた人心掌握術のマエストロ(天才)であることが明らかになった。

 

以来、権力の座を行ったり来たりして現在の第3次内閣にまで至り、首相在任期間の合計は9年を越えて、イタリア憲政史上で戦後最長になった。

→<日伊、ダメ首相が行く

 

不支持勢力から「ベルルスカ」と戯称(ぎしょう)され、からかわれてきたしたたかな男は、首相のほかにもさまざまな顔を持っている。

 

つまり、イタリア一番の大金持ち、メディア王、強豪サッカーチームACミラン会長、女たらし、放言男・・

 

そして僕は彼を勝手に「超スーパー・スケべ・ラテン・ジジ・ラバー」と名付けて、ふざけたり、あきれたり、感心したりしながら眺めつづけてきた。

 

「ベルルスコーニのハーレム」と題された盗撮写真記事がイタリアの芸能週刊誌に大きく掲載されたこともある。

 

国内最高のリゾート地サルデニア島の豪華別荘で、五人の若い女性と手をつないで散歩したり、椅子に腰掛けて両膝に女性を座らせてにニヤケている写真などが紙面を飾った。

 

彼は権力者として君臨する間にさまざまな醜聞にまみれ、激しい批判や顰蹙(ひんしゅく)や問責や弾劾や駁撃(ばくげき)を浴び続けたが、持ち前の明るさと機知と権謀術数で常にピンチを逃れ、一時期は醜聞そのものや奔放な言動までが高感度アップにつながるという稀有な事態まで起こったりして、内閣支持率が60%という高い数字に張り付いたりもした。

 

大金持ちの首相は話し好きで、話し好きが高じて、フィンランドの女性大統領タルヤ・ハロネンにセクハラまがいの言葉をかけて物議をかもしたりもした。

しかし、やはりどこか憎めないところがあり、人気はいつも高かった。

 

だが2009年に起きた買春ハーレムスキャンダルの頃から雲行きが怪しくなった。

若い女性との交際発覚と、それに続く妻との離婚などの醜聞が続いて、私生活の乱れが政治手腕をかき消していたところ、今年に入って未成年者買春疑惑が飛び出した。

 

喜怒哀楽が表に出やすいいかにもイタリア人然とした首相の顔には、その頃から暗さと疲弊が滲み出るようになったと僕は感じていた。

 

ベルルスコーニ首相は、イタリアの財政危機に呑み込まれてついに権力の座から降りる、というのが大方の見方である。

 

一代で莫大な個人資産を獲得し、富を築き上げて大成功を収めた首相だが、イタリア国家の財政危機に際しては、これと戦い回避する能力を持つ「救国の士」ではなかったという訳である。

 

ベルルスコーニには失言や醜聞や尊大や軽薄などの欠点はあるものの、ビジネスや経済や財政に関しては、彼はイタリアのどの政治家よりも優れた能力を持っている、と僕はひそかに考えてきた。

 

だから、正直、少しガッカリしている・・