洪水でひどい目にあったジェノバの市民は、多分イタリアでもっとも親切な人々。
特に交通巡査や役人や道行く人々・・つまり全てのジェノバ人。
僕はロケでイタリアのありとあらゆるところに行く。その体験から「親切なジェノバ人」という結論に行き着いたのである。
情報収集やコンタクトや時間の融通や撮影許可やロケ車の置き場所や始末や・・あるとあらゆる事案にジェノバ人は実に親切、丁寧、懇切に対応する。
それは多分ジェノバの人たちが国際的であることと無関係ではない。
港湾都市のジェノバには、常に多くの外国人が居住した。ジェノバの人々は言葉の通じない外国人を大事にした。彼らは皆ジェノバの重要な貿易相手国の国民だったから。
そこからジェノバ人の親切の伝統が生まれた。
国際都市ジェノバには、また、国際都市ゆえの副産物も多くあった。
その一つがサッカー。
世界の強豪、イタリアサッカーの発祥の地も、実はジェノバなのである。
その昔、ジェノバに上陸したイギリス人船乗りらが母国からサッカーを持ち込んで、それが街に広まった。だからイタリアサッカーの黎明期には、ジェノバチームは圧倒的に強かった。今でこそトリノやミラノのチームが権勢を誇っているが。
古来、イタリア半島西端のやせた狭い土地で生きなければならなかったジェノバ人は、働き者で節約精神も旺盛だと言われる。
そこで生まれた冗談が「イタリアのユダヤ人」。イギリスにおけるスコットランド人と同じ。
ジェノバ人は土地が貧しかったおかげで海に進出し、海洋貿易で大いに栄えた。知恵をしぼって巨万の富を得たのだ。奇(く)しくもイタリア半島東端のベニス人がそうであったように。
それは英国におけるスコットランド人や、世界におけるユダヤ人と同じ。
彼らのケチケチ振りを揶揄(やゆ)しながら、人は誰でも皆、また彼らの高い能力をひそかに賞賛してもいる。
「~のユダヤ人」というのは決して侮蔑語ではない。それは感嘆語だ。
親切でこころ優しいイタリアのユダヤ人、ジェノバ人に乾杯!
感嘆語のみなもと、ユダヤ人には、もっと、さらに乾杯!!
閑話休題
リビアなどの話。
父親のカダフィ大佐と共に殺害された、リビアのムタシム・カダフィとハンニバル・カダフィは、2003年に米軍によって殺害された、イラクのサダム・フセインの息子、クサイ・フセインとウダイ・フセインを髣髴(ほうふつ)とさせる。
4人は良く似ていて、同時に大いに違うイメージでもある。
似ているのは、お互いに専横的で暴力的。かつ父親の独裁政権の近くにいて、あわよくば親の権力を継承したがっていた節があること。
そして、実際に後継者候補であろうと考えられたのは、どちらの独裁者の場合も次男。つまりフセインがクサイ、カダフィがサイフ・アル・イスラムだった。
逆に似ていないのは、ウダイとクサイが土着的、閉鎖的であるのに対して、ムタシムとハンニバルが国際的、開放的な印象を与えることである。
言葉を替えれば、暗い暑苦しいイラクの悪人2人と、風通しの良い明るいリビアの悪人2人。
このイメージは彼らの父親にも当てはまるように思う。
サダム・フセインには、フレデリック・フォーサイスが小説「神の拳」で描破(びょうは)したような、酷薄で暗くて土着的な圧制者のイメージが強い。
それに比べるとカダフィは同じ暴君でありながら、ちょっと間抜けな感じもある明るい狂犬、あるいはドジな猛獣、とでもいうような。
サダム息子らが、一時期を除いてほとんど自国を出なかったのに対して、ムタシムとハンニバルの2人のカダフィ息子は、ひんぱんに外国に出た。
そして、そこで放蕩を尽くしたり暴力沙汰を起したりして、賑やかなスキャンダルをまき散らし続けた。
やることなすことが国際的で、従って世界のメディアの監視や批判にさらされ続けた分、カダフィ息子2人はなんとなく分かりやすいのである。
→<独裁家族の金の行方>
そうした事情に加えて、殺害されたムタシム・カダフィの最後の様子が映像に乗って世界中を駆け巡ったことが、彼に対する同情を誘った。
それは父親のカダフィ大佐の殺害時の映像とは違って、無力な青年が屠殺同然に殺される印象があって、哀れを誘う酷いものだった。
→<ムタシム・カダフィの無念>
また暴力と醜聞にまみれた彼の兄のハンニバルは、戦闘には向かないとカダフィ大佐に見抜かれて、腹違いの長兄と共に一族の女子供(おんなこども)を守る任務を負わされ、トリポリ陥落前に隣国のアルジェリアに逃亡させられた(らしい)。
このあたりのいきさつが、ちょっとほほえましいエピソードにも見えてきて、憎めないやつ、のような雰囲気をかもし出したりするのかもしれない。
それたこれやで、戦うことなくアルジェリアに逃れたハンニバルには、反カダフィ派の民衆と激しい戦闘を繰り返した2人の兄、サイフ・アル・イスラムとサーディとは違って、あるいはどこかで生きのびる道が残されているのかも、とも思う。共に逃亡中の穏健な人物らしい長兄のムハンマドも含めて。ただしおそらく、過去の罪を認め、償い、且つリビア国家から盗み出した金をきちんと返還するという条件でなら、ではあるが。
もしそうなった暁(あかつき)にはぜひ、今回のリビア政変に関する真相を、独裁者側の視線で書いたり、語ったり、叫んだり、ド突いたり(笑)して、情報を発信しまくってほしいものである。
なにしろ今のところ、世界中に喧伝されているのは、独裁者を糾弾する側の一方的な情報のみなのだから・・