今日もはらはら、ひらひらとうすい小さな綿のような雪が舞い落ちている。
僕の書斎兼仕事場から見下ろすブドウ畑には、雪が厚く敷きつめられて、冬枯れたブドウの木が白い大地に突き立てられたように整然と並んで広がっている。
今のところ、ブドウの木々をおおい隠すほどの雪は降りそうにない。アルプスから遠くない村にあるわが家の周りには、ひんぱんにではないがドカ雪が降ってけっこう難渋することがある。
実際にイタリアの各地で大雪が降って、交通機関の混乱にはじまる困難や被害が広がっている。それなのに北イタリアにあるわが家の一帯には、ほとんど雪の影響は出ていないのである。
美しいと思えるほどの雪ならいいが、イタリアのほかの地域や新潟をはじめとする北日本の大雪などは、つらい。
わが家のあたりは、北陸や東北のように豪雪に見舞われる不運は起こりにくい。アルプスや前アルプスの山々が盾になって、雪雲の南下を絶つからである。
それでも時どき往生するような積雪がある。今がその時かと身構えているのだが、何度も言うように大雪になりそうな気配がない。南イタリアなども雪に手を焼いている日々なので、アルプスの山を望む北イタリアの村にいる自分は、ちょっと不思議な気分がするのである。
ローマも雪で難儀をしている。
イタリアきっての高級紙(全国紙)「Corriere della Sera(コリエーレ・デッラ・セーラ)」は昨日、古代ローマ帝国の戦士の甲冑を着た大道芸人が、雪に煙るコロッセオを背景にとぼとぼと歩いて帰宅する様子の写真と共に、首都の雪害を一面トップで報じた。
観光客を相手に商売をする写真の大道芸人は、まるで(チクショー、商売あがったりだ、バカ雪め!)とでもつぶやきながら、仕事場の観光スポットを後にしているように見えて秀逸。
同紙は一面トップから3ページに渡って、大雪によるローマのてんやわんやを伝えているが、掲載された写真がどれもこれも面白い。
ローマの大通りでスキーをする男や、二人の女性が、雪をものともしない足肌の露出したエレガントなハイヒールを履いて、トレビの泉の前を歩く姿など、ただの雪景色ではないユーモラスな絵が多い。
その中でももっとも僕の気を引いたのは、ローマの動物公園の日本猿の姿。
降りしきる雪の中、頭に綿帽子をかぶって木の枝に「ひとり」チョコンと座っている。
どう見ても1匹ではなく「ひとり寂しく」という感じ。
そして、
(もし日本なら大勢の仲間といっしょに温泉に浸かれるのになぁ)
とでもつぶやいているような・・
でも、
実際にそうつぶやいたのは、僕だったのである。
日本から遠く離れたローマの動物公園で、たったひとり(写真だけを見れば)寒そうに座ってこちらを見つめている猿君は、断じて猿なんかではなく「ひとりの同胞」(笑)としてしか僕の目には映らなかった・・