シリアのアサド大統領とその一族の秘匿金を捜し求める動きが加速している。
独裁者の終末には金を巡る憶測や風評や問責が必ずついて回る。逆に言えば、独裁者が金の噂をされるようになったら、もう「お終い」ということである。
独裁者が権力を振るっている間は、金よりも彼の政治的行動、つまり民衆抑圧のあれこれがはるかに重要だから、誰も金の話などしない。
それに独裁者というのは、ほとんどが自国の国庫金や財産を含む一切を私物化して、我が物顔で使いまくり盗みまくるのが当たり前だから、当たり前のことは誰も指摘しない。
加えて圧政下の国民の場合は、そのことを指摘して、弾圧・復讐されることへの恐怖心も働くからなおさらである。
金の周りには魑魅魍魎が群がる。独裁者の金を語るのは、その政権の腐敗そのものを語ることだから決して無視されるべきではない。
これまでに新聞を中心とするメディアで取り沙汰されたアサド関連の金の動きの主なものは:
1)世界中に分散秘匿しているアサド個人の裏金は10~15億ドルに上ると見られる。
2)シリアのGDPの60%が、アサドの承認の元に彼の従兄弟のラミ・マキロフ(Rami Makhlouf)傘下の会社や事業によって支配されている。
3)EU(欧州連合)は2012年7月までに、アサドの隠し財産を管理していると見られた129人のシリア人と49の会社の資産を凍結した。このうち英国内だけでも1億2千8百万ユーロがほぼ現金で見つかり差し止めされた。
4)アメリカ財務省は7月20日、シリアの4人の閣僚並びにシリア中央銀行総裁を含むシリア人29人に対して、アサド大統領に代わって同国の富を盗み隠匿したとして制裁を課した。
など。
ロンドンを拠点にする民間諜報会社“Alaco”のトップ、イアイン・ウイリス氏によれば、これまでに見つかったアサド大統領の隠匿資産は氷山のほんの一角に過ぎない。彼は家族や親族や政権内部の人間に託して、莫大な資産を世界中に分散秘匿している。中でもロシア、ドバイ、レバノン、モロッコ、さらに香港などが主な隠し先と考えられている、という。
だが、アサドのような独裁者の隠し資産を追い詰めるのは容易ではない。彼らはその道に長けた専門家を数多く抱えていて、資産の移動、管理、隠匿が決して表に出ないようにあらゆる方策を取っている。そうしておいて何か事が起これば、すぐさま資産を右から左に動かして、証拠のまったく残らない形で秘匿してしまうのである。
例えばこういうケースがある。かつて英国の捜査機関がイラクのサダム・フセインの違法な資産をフランスで発見し、これを差し押さえようとした。ところが1億ユーロにも及んだその裏金は、パリからパナマさらにジュネーブへと次々に移動隠匿されて行き、結局差し押さえることができなかった。
シリアのアサド大統領がありとあらゆる方法で国から盗んだ莫大な金を隠しているのは明らかだろうが、それを追い詰めて没収するのは至難の業なのである。同様なことは、2006年に死亡した前述のサダム・フセインに限らず、エジプトのムバラクやリビアのカダフィ大佐とその一族の場合にも起きている。
また英国のある財務査察官はBBCのインタビューに応えてこう話した。シリアは盗賊に支配された国、と断定しても決して間違いではない。アサド以下の支配者たちは、彼らの友人や親族などに次々に便宜を与えて国富を盗ませ、私腹を肥やし、さらに資産を国外に運んで隠すことを許可してきた。
アサド大統領の秘密資金の捜索は今始まったばかりである。
それはアサド自身が、反政府軍によって政権の座から引き摺り下ろされた後も続くことが確実な、長い忍耐の要る作業であることは疑う余地がないのである。