イタリアは、新ローマ教皇が誕生した今月13日以来、祝賀ムード一色に染まって、まだ止む気配がない。
カトリックの総本山バチカンを懐に抱くこの国は、財政危機に端を発した政治の混乱が続いていて、2月の総選挙以来誰も組閣できない状態に陥っている。
そんな折に、第265代ローマ教皇のベネディクト16世が突然辞任して、新教皇を選出する秘密会議「コンクラーヴェ」が開かれた。
バチカン最大のお祭り騒ぎとあって、国民の9割以上がカトリック教徒ともいわれるイタリアは大いに沸き、政治の混乱も空白もすっかり忘れ去られ、人々は宗教上の一大ショーに酔いしれた。
長引くと見られたコンクラーヴェは意外と短く、世界中から集まった枢機卿による秘密選挙で、ブエノスアイレス大司教のベルゴリオ枢機卿が第266代ローマ教皇に選出された。
今回のコンクラーヴェでは、教皇候補者としてアジアやアフリカ出身の枢機卿の名前も挙がっていて、史上初の有色人種の教皇が誕生するかどうか注目された。
結局、退位したベネディクト16世と2005年のコンクラーヴェで争い、次点に終わったグレゴリオ枢機卿が、いわば復活当選した。
そこにはコンクラーヴェで大きな力を持つ、バチカンのイタリア人聖職者らの暗躍があったと見られている。
バチカンは変革を求められていて、少しづつではあるがその方向に向かっている。しかし、非白人の教皇を受け入れるほどの度量はまだ備えていない。そこが黒人の大統領を生んだアメリカの進展とは異なる。
ローマ教皇とは言うまでもなく、カトリック教最高位の聖職者のことであり、世界中に12億人前後いるとみられるカトリック教徒の精神的支柱となる存在である。
非世襲のほぼ終身職で、過去およそ2000年、265人の教皇は全てヨーロッパ人が占めてきた。
今回初めて南米出身の教皇が誕生して、バチカンのヨーロッパ偏重主義に風穴を開けた。
そればかりではない。新教皇は、清貧の象徴であるイタリア・アッシジの聖人フランチェスコの名を、史上初めて自らの教皇名とした。
また彼は強力な宣教活動で知られるイエズス会出身の初めての教皇でもある。
初ものづくしの新教皇は質素な生活ぶりとつつましい性格が早くも人々の人気を集めている。
しかし彼が率いるローマ教会は、聖職者の幼児への性的虐待とそれを隠蔽する旧態依然とした体質、女性や同性愛者への差別問題、さらにバチカン銀行による金融不正事件など、取り組むべき難問が山積していて前途は決して平たんではない。