加筆再録

2月の総選挙から大分時間が経った今も、イタリアでは政局が座礁したまま動かず、誰も組閣できない政治混乱が続いている。下院で辛うじて第一党となった左派民主党、ベルルスコーニ前首相率いる右派自由国民、そしてお笑い芸人グリッロ氏率いる新興勢力の五つ星運動がごちゃまぜになって、政治の混 沌を演出しているのである。

 

イタリアの政治騒動は今に始まったことではなく、楽天的な国民はカオスには慣れている。が、政治空白が長引き混乱の度合いが増すに連れて、さすがにため息をつく者が多くなってきた。国民の大半は、政局を王道に戻そうとに懸命に努力するナポリターノ大統領の動きを、半ば諦めつつも固唾を呑んで 見守っている、という風である。

 

間もなく任期切れを迎える87歳の大統領は、それぞれがエゴと欲と野望をむき出しにして対立する3勢力の間を仲介したり、賢者10人委員会 を組織して国の行く末を模索したり、と最後の奉公に躍起になっている。しかしながら、イタリア国民の父とも呼ばれる誠実を絵に描いたような老大統領の働きかけは、3人のオポチュニストには、カエルの面になんとか、状態で一向に埒が開かない。

 

イタリア人は口癖に

「イタリア共和国は常に危急存亡の渦中にある(L`Italia vive sempre in crisi)」

と言う。

 

誕生から150年しか経たないイタリア共和国は、いつも危機的状況の中にある。イタリアは多様な地域の集合体であり、国家の中に多様な地域が存在するのではない。つまり地域の多様性がまず尊重されて国家は存在するというのが、イタリア国民の国民的コンセンサスである。

 

その考え方は都市国家に代表されるかつての自由独立国家群の精神から来ている。イタリア国民は、統一国家の国民であると同時に、心的にはそれぞれがかつての地方国家にも属する。現在の統一国家が強い中央集権体制に固執するのは、もしもそうしなければ、イタリア共和国が明日にでもバラバラに崩壊しかねない危険 性を秘めているからである。

 

その危うさには大きなメリットもある。つまり彼らは国家の危機に対して少しも慌てないのである。危急存亡の時間や事案に慣れ切っている。アドリブで何とか危機を脱することができるとも考えているし、また実際に切り抜ける。彼らは歴史的にそうやって生きてきたのだ。従って今の無政府状態にも似 た政治の混乱も彼らは必ず切り抜ける・・

 

などと思いを巡らせながら、僕はこの国の政治の混迷を眺めている。眺めているうちに気づいたことがある。つまり、右と左の既成2政党の無能無策はさておき、イタリアの今の政局を普段よりもさらに大きな混乱に陥れている五つ星運動が、北朝鮮と日本維新の会に似ている、と思うのである。

 

特に3組織のトップは、酷似している、と言ってもいいくらいだ。つまりベッペ・グリッロ氏と金正恩氏と石原慎太郎さんは、下品で尊大で笑える、という点でぴたりと重なる。組織を独裁者の専横と恐怖政治で運営している点も同じ。

 

北朝鮮は言うまでもないが、五つ星運動もグリッロ氏がメンバーを独断で除籍したり、メディアとの接触を厳しく禁じたり、組織の内実を秘匿したりと、まるでカルト団体かと見紛うばかりの横暴な側面を持つ。

 

この点ではさすがに日本維新の会は同列には並べられないかもしれないが、共同代表の橋下さんは、好戦的で言動が野卑で思い上がりの甚だしい石原さんと手を組む、という巨大な間違いを犯したことで、焦りも手伝ってか独善的な手法での組織の引き締めに躍起になっているようにも見える。

 

維新の会が他の2者と大きく違うところもある。

 

五つ星運動は、党首のグリッロ氏の意味不明の言動や、秘密主義の党運営や、不透明な進路や政策などが明るみになるに連れて、人々の深い困惑を呼んでいる。が、元々はインターネットを駆使して、イタリアの既存の政党や政治家を厳しく断罪し、同時にそれによってグローバルなコミュニケーション・ ネットワークを構築して、将来は世界政府まで樹立しよう、という若々しい理想を掲げている団体である。彼らは少なくとも理念上は、最終的には世界を相手にしようとしているのだ。

 

一方北朝鮮は、脅しや挑発や大嘘によって日米韓を振り回したり、怒らせたり、不安にするなど、違う意味で「世界を相手」にしている。少なくとも東アジア全体に影響を与え、それによって世界にも存在感を示している。

 

この部分では日本維新の会は大いに違う。愛国を装っているだけで、実体は偏狭な排外国粋主義者に過ぎない石原さんが、まるで『引きこもりの暴力愛好家』が壁に向けて吼えるように、世界から顔を背けたまま国内の同種の人々に向かって檄を飛ばすだけの、超ローカルな政治団体に留まってしまっている。

 

北朝鮮は論外だが、彼らはせめて、時代の新しい動きに乗っかったイタリアの五つ星運動の爪の垢でも煎じて飲んで、壁から振り向いて勇気を奮って外出をし、世界を相手に我が国の理想を語り、主張し、行動する、真の意味での愛国者になってほしいものである。