2013年4月18日、イタリア大統領選挙が始まった。

 

上下両院議員とイタリア各州代表によって投票が行なわれ、全体の3分の2以上の得票で選出されるが、そこにはちょっと変わった規定がある。

 

投票は1日に2回行なわれ、3回目の投票までは前述の3分の2以上の得票ルールが適用される。しかし、それまでに当選者が出なかった場合、4回目からは単純過半数の得票で大統領が決まる。

 

決定まで一日に何度も投票が繰り返されるところは、先日行なわれたローマ教皇選出会議・コンクラーベにも似ているが、3分の2以上の規定が単純過半数へ、とハードルが下がるところは、何事につけ全体のコンセンサスを得ることが難しい、パッチワーク国家イタリアらしい取り決めである。

 

選挙で有力視されているのは、左派連合のボスのベルサーニ書記長と、右派連合の親分ベルルスコーニ前首相が推す、フランコ・マリーニ元上院議長。

 

天敵同士と形容しても過言ではない左右の顔役が、投票間際になって裏取引をしてマリーニ元上院議長を推すことで合意した。

 

この露骨な談合に左派連合の主流である民主党員が反発。特に党内でベルサーニ書記長のライバルと目されている、若きフイレンツェ市長マッテオ・レンツィ氏(38歳)は、自らが率いる50人以上の仲間に反対票を投じさせると言明。左派連合内の他の議員もこれに追随すると見られている。

 

僅差で左派と右派に対抗している新興勢力、五つ星運動は、元下院副議長で学者のステファノ・ロドタ氏を推している。

 

民主党内の反発はあるものの、今のところフランコ・マリーニ元上院議長が最有力候補であることに変わりはない。しかし、選挙が長引いて左派連合からさらなる造反者が出た場合には、ステファノ・ロドタ氏が大きく浮上する可能性もある。彼は右派のベルルスコーニ氏とは反目する。その分、民主党の 造反票がすべてロドタ氏に流れる、とする見方もある。

 

イタリア大統領は普段は権限のない名誉職の色合いが強い。しかし政局が混乱した時には、大統領は政党間の調整役として動いたり、首班を指名して組閣要請を出したり、議会を解散して総選挙を行なうなどの権限を持つ。例えば2011年11月、ベルルスコーニ内閣が倒れた際には、現職のナポリター の大統領がマリオ・モンティ氏を首相に指名して、組閣要請を出した。イタリア危機に対応するべく素早く動いたのである。

 

しかし、大統領は任期切れまでに半年以上の時間がない場合は、議会を解散したり総選挙を行なってはならない、という規定がある。2月の総選挙で明確な勝者が出なかったイタリアでは、左派と右派と五つ星運動の3勢力が拮抗したまま、政権の樹立もままならない状態が続いている。だが、5月半ばに 任期が切れるナポリターノ大統領は、事態打開のために再び選挙を行なうという選択を取ることができず、政局の混迷は深まる一方だった。

 

新しく選出される大統領の仲介で、新政権が誕生するのか、あるいは再び総選挙になだれ込むのかは誰も分からない。しかし今日から始まる大統領選挙が、膠着した政局を大きく動かす切っ掛けになるであろうことは、イタリア国民の誰もが知っていて且つ大半の国民がそうなることを願っている。