ブラジルVSスペインのコンフェデ杯決勝戦は、昨年の欧州杯決勝戦を見ているようだった。互いに譲らない緊迫した試合を予想したのに、フタを開けてみるとブラジルがスペインを圧倒する一方的な試合展開。昨年の欧州杯決勝戦で、逆にスペインがイタリアを蹴散らしたみたいに。

 

スペインはイタリアとの準決勝で、延長戦からPK決戦までの死闘を演じて疲れていたのだろうか?でもそれを言えば、スペインと同じ疲れを抱えながら、ウルグアイとの厳しい3位決定戦を制したイタリアはどうよ、ということになる。

 

来年のW杯もあることだし、早計は禁物だが、2008年以降世界サッカーを牛耳ってきたスペインの常勝サイクルは終わって、ブラジルがまた世界サッカーを席巻するのではないか、と感じさせるような試合内容だった。

 

スペインは2大車輪である中盤のイニエスタとシャビのうち、後者が動きを封じられて全く精彩がなかった。スペインの敗因は多くあるのだろうが、僕にはシャビが機能しない中盤で、スペインが「いつものように」はゲームを構築できなかったことが、一番の命取りだったように見える。

 

少しはイタリアのサッカーを見ている僕は、ここ数年まっしぐらに常勝街道を進んできたスペインとイタリアの力の差は何か、と考え続けてきたが、それは僕の独断と偏見では:「スペインには2人のピルロがいる」から、ということにつきる。

 

アンドレア・ピルロはイタリアチームの司令塔であり肝心要(かんじんかなめ)の偉大なプレーヤーである。2006年W杯のイタリア優勝の立役者も彼だ。

 

スペインにはそのピルロが2人いる。言うまでもなくイニエスタとシャビである。その事実が2チームの具体的な力の差だと僕は考えている。

 

以前は2人に加えて、少し実績は落ちるがファブレガスも計算に入れて3人のピルロがいると考えたことさえある。が、ファブレガスに関しては、イタリアのデ・ロッシが十分に対抗して、プラスマイナス0の力関係になると思うようになった。

 

「ピルロ度」がスペイン2対イタリア1では、逆立ちしてもイタリアには勝ち目はない。

 

その強いスペインをブラジルは粉砕した。スペインの正確無比で華麗なポゼッションサッカーは、イタリアやドイツを始めとする欧州の各チームに大きな影響を与え続けてきたが、それは明らかに南米チームにも波及していて、ブラジルは彼ら独特のセンスと力量でスペインサッカーの良さを自家薬籠中の 物にしていると感じた。

 

ブラジルが中盤でスペインのボール回しを寸断し、逆に自らのポゼッションに持ち替えて果敢に攻めまくったのは偶然ではないように思う。ブラジルはスペインを踏み台にして、彼らのお家芸であるパス廻しとドリブルに磨きをかけてさらにステップアップしている。

 

それは実はイタリア、ドイツ、イングランドなどのヨーロッパの強豪チームも同じ。陳腐な言い方だが、例えば次のようなことである。イタリアはスペインを模倣することでカテナッチョ(ディフェンス重視)の伝統を捨て、ドイツはスペインを意識することで組織重視の四角四面のプレースタイルを変え た。またイングランドはスペインに追随することで運動能力重視の縦パス一辺倒の陳腐な戦略を克服した・・とでもいうような。

 

スペインはここから来年のW杯までに、彼ら独特のポゼッションサッカーにさらに磨きをかけるか、別の戦略を組み込んで今のスタイルを変革しない限り、W杯で勝つのは難しいのではないか。

 

繰り返すが、なにしろブラジルと欧州の強豪チームを筆頭に、世界各国の代表チームがスペインのプレースタイルを常に意識しながら独自のやり方でスペインの方法を習熟しようと躍起になってきた。それには高い技術と能力が要る。そして、前述の強豪国にアルゼンチンやフランスなどを加えた国々に は、それだけの技術と能力があるのだ。

彼らはスペインサッカーを咀嚼して、あるいは咀嚼しようと懸命に努力をしながら、それぞれの伝統のプレースタイルの中に組み込んでは進化を続けている。

 

言葉を変えれば、スペインサッカーの敵はスペインサッカーそのものである。従ってスペインは、今以上に自らを進化させて行かない限り、最早世界の頂点には立ち続けることはできない。力の拮抗している世界のトップチームが、スペインと同等かそれに限りなく近い高みにまで成長しているのだから。

 

スペインは自らを鍛え上げ、精進し、世界のトップに上り詰めた。そうすることで世界サッカーに巨大な影響を与え、世界サッカーのレベルを押し上げた。そして、まさにその功績によって、王者としての自らの立場を危うくすることになった。変革し、前進し続ける世界サッカーの歴史の中では、王者の 在り方が常にそうであったように・・