2020年東京オリンピック決定の嬉しいニュースは、ここイタリアでも好感を持って伝えられています。

そればかりではなく、東京開催が決定した直後からその次の2024年のオリンピックをイタリアに招致しよう、という声まで挙がり始めました。

1964年、東京は60年のローマ大会に続いてオリンピックを開催しました。今度はローマが東京に続くべきだ、という訳ですね。

かつて祭典が相前後して2都市で開催された偶然もさることながら、五輪が東京に行くことを喜んでいる多くのイタリア国民は、それにあやかりたいという気分になっているのです。

現在の段階では、2024年の有力な開催都市候補がパリであることをイタリア国民も良く知っています。でもそれは飽くまでも噂であり、ローマが立候補すれば十分に勝機はあると感じているようです。

2024年のオリンピックで今から確実なのは、ヨーロッパの持ち回りになる、という点だけでしょうからそれはあながち不思議な考えではありません。

2016年開催地のリオデジャネイロは下馬評の高かったシカゴを破り、2020年開催地の東京は、開催都市決定直前まで有力と見られていたマドリードを押さえて勝ちました。

事前に強いと見られていた候補都市が開催地決定選挙で落選する確率は、五輪ではとても高いのです。従って2024年ローマ五輪の可能性は、多分パリと同程度に高い、と考えてもいいのでしょう。

2024年がパリになるなら100年振りの開催。従って節目という意味で優位にあるのかもしれない。しかし、パリは1924年の前に1900年にも開催地 になっています。そうすると3回目のパリと2回目のローマという観点では、数が少ないローマが優位にあるのかな、とも個人的には思います。

イタリアがオリンピック招致に傾く実利的な理由ももちろんあります。

今回東京と招致合戦を繰り広げたマドリードのスペインと同様に、イタリアは深刻な財政危機にからむ不況の中にあります。スペインがマドリードに五輪を呼び 込んで、特に若者のための仕事を創出しようと企図したように、イタリアもオリンピックを景気回復の起爆剤にしようと考え始めているのです。

実はローマは、今回日本が勝ち取った2020年五輪の招致を目指していたのですが、破産危機のまっただ中にあるイタリア政府が、大会の財政保証を拒否したために立候補を断念した、といういきさつがあります。昨年2月のことです。

あれから1年半余りが過ぎましたが、イタリアの財政危機は依然として深刻なままです。失業率も特に若者を中心に異常に高く、前述したように第二次大戦後では最大と言われる不況から脱出できずにいます。

それでも、いやだからこそ、オリンピックを招致しようと考える人々が増えてきたのです。1年半前に財政難を理由に諦めたくせに、なんと節操のない態度だと いう批判もありますが、五輪開催に前向きな人々は、同じく財政難の中で行なわれたロンドン五輪の成功を見、今回また不況を押して招致活動を展開して、見事に権利を勝ち取った日本の活動に刺激を受けたのです。

五輪大会は周知のように中国やブラジルなどの新興国での開催と、現在の日本や英国などの成熟国家での開催には大きな違いがあります。経済発展を続ける新興国は国威発揚を目指して五輪を活用しようと考え、それは概ね成功しています。1964年の東京五輪がそうでしたし、2008年の北京オリンピックもそうで す。

経済が発達した成熟国家であるイタリアは、同じ成熟国家であるギリシャが2004年アテネ五輪で経済的に失敗した厳しい現実を目の当たりにして、2020 年の大会招致に二の足を踏みました。しかし、繰り返しになりますが、その後に行なわれた英国ロンドン五輪の成功を見て再び心を動かされ、さらに今、東京の 明るい展望にあふれた招致運動を見て、これに大きく啓発されたのです。

国全体への経済効果、という観点からはその価値を疑問視されることも多いオリンピックですが、恐らく世界最大のイベントである五輪のもたらす文化的社会的な利益は計り知れない物があります。だからここまでの成熟各国家の開催前、開催、開催後の取り組みを参考にしながら計画を立てていけば、イタリア・ローマ が2024年開催を「経済的にも」成功に導くことは夢ではないように思います。

イタリアのそうした動きが、東京の見事な誘致活動の影響であることは本当に嬉しいことですし、そんな風に世界に影響を与えていること自体が、既に2020年東京五輪の大きな成果の一つとも言えるのではないでしょうか。

五輪招致を勝ち取った東京は、今この時から大会後の施設等の運営法や経済効率なども深く考慮しながら7年間の工事を進めて行くものと確信します。それは きっと東京に、また日本全体にポジテブな効果をもたらすでしょうし、そのことがまたイタリアの招致活動にも好影響をもたらすに違いない。

「2024年パリ五輪」というのも良い響ですが、フランスはこの国に比較した場合それほど経済的には逼迫していません。そこで一つここは「欧州財政危機からの脱出」という大きなテーマにもからめてパリには辞退してもらい、2024年のオリンピックを同危機の元凶国の一つであるイタリア・ローマで開催してほ しい、と考えるのは馬鹿げているでしょうか。

もし実現した場合、イタリアを第二の母国と考えている僕にとっては、2度の五輪が連続して「故国」で開かれることになるわけで、少し大げさに言えば、今から興奮して夜もろくに眠れない日々が続きそうです。