イタリア最大政党の民主党党首に38歳のマッテオ・レンツィ氏が選ばれた。

 

フィレンツェ市長を経て民主党のトップになった同氏は、今年初めの政局混乱時も首相候補と目されたりした。結局同党のエンリコ・レッタ氏が首班になったが、若きレンツィ氏への期待は大きい。


ちなみにレッタ首相もイタリアでは若手の47歳。77歳のベルルスコーニ元首相に代表される老人がのさばる伊政界にとっては、2人の若さは明るい話題だ。


イタリアの財政危機は一向に収まらない。大不況の中、若者の失業率は40%を越えている。スペインの50%越えよりはマシかも知れないが、周囲を見渡したとき、若者のほぼ2人に1人が無職という現実は非常に重苦しく暗い。


若い政治家が大いに活躍してこの国を活性化させてほしい、と僕は個人的に強く願っている。とは言うものの、レンツィ氏は今のところ海のものとも山のものともつかぬ存在である。民主党内で台頭し、左派の牙城であるフィレンツェ市の市長を務めてはいるが、国政の場でどんな動きをするかは分らない。


しかし、イタリアを今の混乱に陥れたベルルスコーニ氏が伊政界の絶望なら、少なくとも彼は希望だ。若ければ全て良し、とは言えないが、多くの改革が必要なこの国の仕組みを変えるのは、やはり勢いのある彼のような政治家ではないかと思う。


右と叫び左と主張するイデオロギーは僕にはあまり興味はないが、マッテオ・レンツィという若い希望には大いにエールを送りたい。


日本の民主党に似て、伊民主党も内部分裂がお家芸である。旧共産党系の議員とその他の議員が寄り集まってできているからだ。


その弱さを突かれて、彼らは過去20年間べルルスコーニ氏率いる中道右派に多くリードを許してきた。逆に言えば、ベルルスコーニ氏は彼の求心力で右派を束ね続けて、長い間イタリア政界を牛耳ってきたのである。


若きレンツィ党首に求められるのは、求心力を発揮して民主党そのものと中道左派勢力をまとめることである。それができれば、民主党のレッタ内閣は綱渡りの今の政権運営から抜け出して、安定した政権を樹立できるだろう。


そうなった暁には、レッタ首相は効果的な経済政策も打ち出せるようになって、財政危機で沈鬱な状況にあるイタリア社会にも少しは光が差すのではないか。


それは同時に、レッタ後の首班へ向けてレンツィ氏が確固たる基盤を築くことを意味する。それどころか状況によっては、レッタ首相を差し置いて同氏が一気に首班指名を受ける事態も考えられる。


そうした可能性が見え隠れするからか、レッタ首相と若き党首の関係は、どうも完璧な一枚岩ではないような雰囲気もある。


もう一つの不安材料もある。レンツィ党首は毒舌家や皮肉屋などの議論好きが多いフィレンツェの政治家だ。彼自身も議論が好きで演説もうまい。

議論好きとは「おしゃべり」の別名でもある。彼が議論のための議論、つまり際限のないおしゃべりに終始して、結局敵を多く作って求心力を失うという事態も又あり得る。


大きな希望ではあるが、やっぱりまだ海のものとも山のものともつかないのが、彗星のごとく伊政界に出現したマッテオ・レンツィ伊民主党党首なのである。