レンツィ政権発足から一週間が過ぎた。
一週間では何も変わらず、今日現在のイタリアの失業者数は約3百30万人、率にすると12、9%に達する。
イタリアが先進国の中で最も大きな借金を抱えて苦しんでいた1970年代後半以来の高率。若者の失業率に至っては42、4%という異常事態である。
これらの数字は、レンツィ政権発足直前よりもほんのわずかだが悪化したと考えられている。
早計は禁物だが、レンツィ政権は既に失敗したようにさえ僕には見える。
一週間で何も変わらなかったからではない。変革の予兆というものがほとんど感じられず、国民の熱狂がゼロだからだ。
熱狂とは言わないまでも、国民の熱い期待感が全くと言って良いほど姿をあらわさない。それはきっと期待する気持ちが人々にないからではないのか。
まさにイタリア語で言う:piu` cambia, piu` rimane uguale(変えれば変えるほど全てが同じ)状態である。
それらの極めて重大な問題、あるいは疑問は、ひとえにレンツィ政権が総選挙を経ないで成立したことに起因している。
レンツィ首相は、前任のレッタまたその前のモンティ両氏に続く、選挙の洗礼を受けていない3人目の首相だ。政権基盤が極めて脆弱である点も共通している。
政権党の民主党は、イタリア下院では過半数を制しているものの、上院では少数派に留まっている。そして悩ましいのは、上院と下院が全く同等の力を与えられている事実だ。それはつまり、政権のあらゆる政策が、上院によって潰される可能性があることを意味する。
先日、レンツィ内閣は上院で信認されたが、それは新首相の演説を聞く議員の冷ややか過ぎるほど冷ややかな態度と、院全体に漂うしらけ切った空気の中で進行した。
上院のタヌキ議員の多くは、この年若い「生意気な」首相への反感を隠そうともしなかった。なにしろ新首相は、上下両院が対等な力を持つ現在の状況を変えて上院の力を削ぎ、例えば日本の衆議院の優越に近い、下院の優越制を導入したいと考えている。
恐らく彼ら上院議員にとっては、国家の危機よりも今の自らの地位の方が百万倍も重要なのだ。だからモンティ及びレッタの2政権の改革案も全て潰してきた。なぜ今、過去の二人とほぼ同じ条件と資格で首相になったレンツィ氏に賛成し、サポートをする必要があるのだろう。タヌキ議員らの考えには一理がないこともない。なぜなら彼ら自身は選挙によって国民の負託を受けている。話し合いと言えばまだ聞こえがいい が、つまるところ選挙を介 さない、謂わば「談合」によって首相になった男の言うことなど聞く必要はない。それよりも何よりも、こいつはたった39歳の若造ではないか・・・新首相の 演説を聴く振りをしていた、守旧派のタヌキ議員らの腹のうちは、きっとそんな具合いだったのだろう。
この前の記事にも書き、さらに何度も繰り返すようだが、レンツィ政権の巨大なアキレス腱はやはり選挙の洗礼を受けずに誕生してしまった事実だと思う。
税の優遇策を早速打ち出した点などが、国内外のビジネス界からは歓迎されているが、強い政権基盤を持たないレンツィ首相が、抵抗勢力を抑えて約束を確実に実行できる保証は無い。
前述したように、レンツィ政権の支持基盤は彼が追放したレッタ前政権のそれとほとんど変わらないのだ。分裂しつつある「五つ星運動」の議員を取り込む目算もあるにはあるが、党友のレッタ首相を裏切って自らの党内に敵を作ったために、たとえそれがうまくいっても相殺される可能性も高い。
首相自身の若さとカリスマ性を別にすれば、前政権と比較したレンツィ内閣の新しさは、閣僚の半分を一気に女性にした点くらいだ。だがその斬新も、真の変革ではなく「見せかけ」のような雰囲気がある。あるいは首相自身のエゴを目立たせるための道具に過ぎないようにさえ見える。
やり方があまりにも突然で、真に女性の能力を評価した結果のなのかどうか、という疑問がどうしても払拭できないのだ。「女性起用が流行り」だから、という軽いノリでの動きではなかったのか。どうにも信憑性が薄い。
レンツィ首相は、彼の最大の武器である若い勢いやカリスマ性が空回りをして、早くも孤立という落とし穴にはまりかけているのではないか、とさえ僕は考えてしまうのだ。
そしてこれもまた繰り返しになるが、僕は自分の見立てが間違っていることを心の底から願っている。
なぜなら、もしもレンツィ政権がコケるようなことがあれば、イタリアの近未来は絶望的なまでに暗い、、と真剣に考えるからだ。
というのもレンツィ氏の後には、イタリアにはもう有望な人材などいないように見える。下手をすると、イタリアの現在の危機を招いた張本人であるあのベルルスコーニ元首相が復活、などという悪夢のようなシナリオが現実にならないとも限らない。