ベルルスコーニ元首相の適用刑罰が「社会奉仕活動」と最終的に決まった。正式発表は4月15日の予定。
元首相は昨年8月、脱税の罪で禁錮4年と公職禁止を言い渡されていた。
禁錮は恩赦法で1年に減刑され、公職禁止も5年から2年に短縮された。
それでも彼は昨年11月、2年以上の有罪判決が確定した議員を失職させる反汚職法によって、上院議員資格を剥奪され直ちに失職した。
イタリアでは70歳以上の高齢者は刑務所に収監されず、自宅軟禁か社会奉仕活動によって罪を償える、という決まりがある。77歳の元首相もその恩恵を受ける。
ところが自宅軟禁と社会奉仕活動では自由度に大きな違いがある。
自宅軟禁は1日2時間の自由行動が認められるだけ。
その2時間の自由も生活に必要な最小限度の活動の為のみ、と定められてれる。外部との連絡も厳しく監視される。
一方社会奉仕活動の場合は、週に一度、それも半日だけのボランティア活動をすれば済む。
許可なく居住地を変えることはできず、夜11時から翌朝7時までは外出禁止。前科のある者や麻薬中毒者と会うことも禁止等々の規定があるが、基本的には普通の生活と変わらない。
元首相とその支持者は、自由が厳しく制限される自宅軟禁ではなく、ほんの少しの屈辱を我慢すれば政治活動を含むほとんどの行動が許される、社会奉仕活動を希望しその旨裁判所に申請していた。その要望が認められた形である。
これって、結局ベルルスコーニ元首相の完全勝利に近い裁決だと僕は思う。
なぜなら現在の元首相は、脱税判決・議員資格剥奪・未成年者買春容疑・etc、 etc・・と不名誉と恥辱にまみれ切っている。
ところが彼は今でもイタリアの3大政党の1つ「フォルツァ・イタリア」の党首であり、且つ過去20年に渡ってイタリア政界を牛耳ってきたカリスマ性の名残もあって、依然として強い政治力を温存している。
元首相はその強い政治力をさらに拡大したい。できれば最大限にまで。そうすることで、少し対応を間違えればさらなる地獄へと向かいかねない、彼の転落へのスパイラルを断ち切りたいと考えている。
従って元首相にとっては、早くも5月に予定されているEU議会議員選挙で存分に選挙運動をすることもできる、社会奉仕活動がより好ましい選択だったのである。
そういう政治的駆け引きもさることながら、元首相に課された刑罰はほとんど茶番だと僕は思う。
禁錮4年は1年に減刑、公職追放期間は5年から2年へ短縮、且つ刑務所には収監されない等々、元首相は多くの恩恵を受けてきた。
そればかりではない。実は彼の1年の刑は、半年の服役後は45日間の減刑に処する、という法律によってさらに短くなって、10ヶ月半で終了する。
要するに刑罰という観点からは軽い仕置きである。
それは厳罰主義を嫌い、温情主義あるいは人権主義とでも形容できる態勢を取る、イタリアの審判制度から導き出された結論で、元首相だけが特別扱いをされている訳ではない。
僕は厳罰主義を取らないイタリアの司法制度には好感を抱きつつ、それでも正直、もう少しどうにかならないものか、という印象を持つ。
なぜなら元首相の場合は罪状が脱税だ。
イタリアの脱税の状況は酷い。脱税が半減すればイタリアの財政危機は直ちに消える、とさえ言われるくらいだ。
そんな国の1、2を争う大金持ちで、且つ政界を牛耳った20年間のうち、約半分の年月を首相として過ごした男が、脱税で有罪判決を受けたのだ。
彼の腐敗の温床である「政治」活動を制限する意味でも、適用刑をせめて自宅軟禁にできなかったものか、と考えるのは僕だけだろうか。