EU(欧州連合)などによる財政緊縮策に、国民投票で【ノー】と言って世界をおどろかせたギリシャは、一転してEUに歩み寄る姿勢を見せて新たな構造改革案をESM(欧州安定化機構)に提出。今日明日中にもEUとの合意が成立するかもしれない。

借金を頼りに身の丈以上の生活をして、首が回らなくなったところで「節約をしろ」と債権者に責められ、「節約はいやだ。でも借金は棒引きにしてくれ。そのほうがあんたのためにも良い」と、EUに対して開き直ったのがギリシャの【ノー】の意味だった。

そこで当のEUや世界の多くの人々は、図々しい、怠け者、恥知らず、盗人たけだけしいなど、など、とギリシャを罵倒している。そこには一面の真実がある。金を借りたら返す。それが当たり前の人の道だからだ。

しかしそうした主張には、貸した者にも責任がある、という片面の真実が抜けている。金の貸し借りでは、借りた方の100%の責任に加えて、貸した側にも一つの蓋然性をしっかりと認識しておかなければならない、という意味でのやはり100%の責任があると考えるべきである。

つまり、債権者は金を貸したのだからそれを返済してもらうのが当然のことながら、借りた側がそれを返済しない、あるいは返済「できない」可能性がある、ということをはっきりと認識しておかなければならない。

ギリシャ危機、つまりギリシャの国庫の粉飾決算が明らかになった2010年以降、EU、ECB(欧州中央銀行)、IMF(世 界通貨基金)のいわゆるトロイカは、同国が財政破綻するかもしれない現実を熟知しながら、ギリ シャに金を貸し続けた 。見返りを期待したからだ。

EUは「いや、見返りを期待したからではない。EUの一員であるギリシャを援助したかったからだ」と言うだろう。それはきっと本心だ。だがその本心は、金に縛られた現実を金ではない何か、つまり「心」に置き換えてモノゴトを語る、全き偽善以外の何ものでもない。

財政破綻が明らかになってからは、ギリシャも緊縮政策を実施してギリシャなりに頑張った。ギリシャ人は怠け者、と決め付ける単細胞の人々は、ギリシャが頑張ったなどとは決して認めようと しないだろう。しかしギリシャも頑張ったのだ。

ギリシャ国民の頑張りが見えづらいのは、ギリシャ人は怠け者という悪意ある先入観と、ドイツを筆頭にする成金国の主張ばかりがメディアに充満していたからだ。それに加えて-- 実はこれがもっとも重要なのだが-- 緊縮策によるギリシャ経済の疲弊があったから、ますます彼らの頑張りが見えにくくなった。

それをいいことに、ギリシャ自身が頑張らないから財政難が少しも改善しない、と前述の成金たちはさらに執拗に主張しまくった。だが、そうではなく、彼らが債務の減免をしないでギリシャだけに節約を押し付け続けたから、同国の財政危機は一向に改善しなかったのだ。

2010年に財政赤字の隠蔽が明るみに出たことを機に、いわゆるギリシャ危機が始まった。以来EUはギ リシャに厳しい緊縮財政策を要求した。ギリシャは懸命に、忠実にこれを履行した。これが真実だ。繰り返す、ギリシャはギリシャなりのやり方で懸命に、忠実にこれを履行したのだ。 EU、特にドイツはそのことを忘れている。

経済成長を無視した緊縮財政は、十中八九その国の経済を悪化させる。借金の返済のためにひたすら節約をし続ける家計には消費活 動をする余裕はない。だから経済は沈滞する。沈滞する経済は税金も払えない。なのに国は払えない税金を無理に徴収する。だからさらに経済が落ち込むという 悪循環に陥る。それがギリシャの状況だったのだ。

EUの要求を達成しようと緊縮策を懸命に実行した結果、ギリシャの名目のGDPは、2011年から昨年までの3年間で約14%も減少した。当たり前だ。増税と緊縮策が同時進行したのだから経済が転ばない方がおかしい。それにもかかわらずにドイツを柱とするEUは、彼らが規定する「怠け者」のギリシャに、もっと節約し ろ、年金をカットしろ、増税もしろ、そうやって財政を立て直せと言い続けた。

彼らは言うばかりではなく、その間に実際に資金も投入し続けた。何のために?借金返済のために。つまり、EUが投入した資金は借金の返済金として「EUに舞い戻り」、ギリシャ社会にはほとんど流通しなかった。ギリシャ社会は節約のみによって辛うじて生きながらえてきた。その証拠が大きな経済減速だ。

両者ともに何かがおかしいとは気づきつつも「何とかなるだろう」と自らに言い続けた。そうやって破綻がきた。破綻がきたら、債務者ギリシャに節約緊縮を求めるのは当然だが、貸した側も債権放棄、つまり借金の棒引きを含む大きな痛みを受け入れないと問題は解決しない。

特にドイツは、通貨統合によって得た巨大な利益の一部をギリシャに還元するべきだ。その状況が受け入れられないのなら、1953年にギリシャを含む欧州各国 が、戦争で疲弊したドイツを救済するために、借金を棒引きにした親切を思い出すべきである。「怠け者の貧しい」ギリシャはかつて、「ケチで大金持ち」のドイツの借金をチャラにしてやった歴史があるのだ。

もう一度強調しておきたい。ギリシャ危機を招いたのはギリシャ自身である。だが、ギリシャの「放漫財政」が明らかになって以降のさらなる危機、あるいは「一向に改善しない」ギリシャ問題の責任は、ドイツに代表されるEUにもある。EUは国民投票の後でギリシャが示してきた妥協案を受け入れて、2010年時点で拒否したギリシャ負債の大幅免除を実施するべきだ。既に溺れているギリシャを、お前だけがもっと頑張れと強要するのは「死ね」と言っているようなものだ。

ギリシャとEUが互いの主張ばかりに固執すると、ギリシャのみならず両者が沈没しかねない。それは経済のみならず大きな政治危機を招く恐れがある。つまり生活の苦しいギリシャにはロシアと中国が近づいて欧州の分断を狙う。欧州が分断されると、中東へのEUの圧力が弱くなって「イスラム国」などの勢いが増してさらなる混乱が起きる。

ロシアと中国は、反欧米のスタンスから中東の混乱を容認し、それを是正しようと動く欧米はさらに疲弊していく。欧米と立場を同じくする日本もそれに引きずられていく、という最悪のシナリオが待ち受けている可能性がある。ギリシャ問題は遥かな遠い国の出来事ではなく、世界の多くの事案と同じように日本にも関係する重要課題であることは、いまさら僕がここで言うまでもない。