スカラ付録1000ピクセル
スカラ座のシーズン初日の出し物を伝える折込紙

今日12月7日、ミラノ・スカラ座の2015年~16年のシーズン初日が幕を開ける。12月7日初日がスカラ座の例年のならわしである。出し物は「ジョヴァンナ・ダルコ(ジャンヌ・ダルク)」 。それは欧州13カ国に同時生中継され、日本にも時間差中継される。

今年のオープニングは異常な厳戒態勢の中で準備が進められ、午後6時に開場する。厳戒態勢が取られているのはパリ同時多発テロが関係しているのは言うまでもない。

イタリアは2001年の米国同時多発テロ以降、イスラム過激派の脅迫を受け続けている。彼らが目の敵にするキリスト教最大派のカトリックの総本 山・バチカンを擁すると同時に、重要な文化遺産を多く有するこの国は、宗教のみならず欧州文明も破壊したい、と渇望するテロ組織の格好の標的になって いる。

そんな中、パリ同時多発テロから5日後の先月18日、米FBIがローマのサンピエトロ広場、ミラノのドゥオモと共にスカラ座が「イスラム国(IS)」の襲撃目標になっている可能性が高い、とイタリア政府に警告した。イタリアの緊張は近年にないほど一気に高まった。

スカラ座周辺を含むミラノの要点で交通規制が行われ、警察と軍警察の特別機動隊がひそかに展開されると同時に、スカラ座広場に面する全てのビルに一般人の目に入らない形で狙撃兵が編成、配置された。またスカラ座の入り口にはメタル探知機も設置される。

スカラ座前の軍警察パトカー1000ピクセル
スカラ座前の軍警察パトカーを強調するイタリア紙

ミラノのジュリアーノ・ピサピア市長は物々しい警備について「テロへの懸念がない、といえば私は無責任のそしり を免れないだろう。それはある。しかし、テロ対策は万全だ。考えられるあらゆる防御策が取られた。7日夜はすばらしい初日が幕を開けることになる」と表明した。初日にはミラノ市長はもちろん、レンツィ首相とマタレッラ大統領の出席も予定されている。

2011年12月7日、いつものスカラ座のシーズン初日、当時のマリオ・モンティ首相は夫人と共にスカラ座に足を運んだ。財政危機の大不況の中、スカラ座での観劇は不謹慎だと主張する多くの批判者の声にひるむことなく、オペラの初日を楽しんだのである。当時のナポリターノ大統領も同席した。

苦境にあるからこそ敢えて明るく振舞う、というのは重要なことだ。苦しいときに苦しい顔をするのは誰でもできる。社会に恐怖を植えつけるという「イスラム国の(IS)」の狙いを蹴散らす意味で も、また国民に勇気や安心をもたらす意味でも、要人が大きなイベントに参加するのは大切だ。その観点からレンツィ首相もマタレッラ大統領も、前任者のモン ティ首相とナポリターノ大統領コンビを見習うべきだ、と僕は思う。

締りがないようにも見えるイタリアの警備体制は、長丁場を無事に乗り切ってつい先日閉幕したミラノ万博において、高い能力を有すると十全に証明された。スカラ座初日の警備にはおそらく遺漏はないだろう。大切なことはその後も長く続く同劇場のシーズンの全てにおいて、警備が高い緊張感とともに継続されることである。万博での半年間のように。