空爆反対の英国民は対案があるのか
パリ同時多発テロの直後にフランスはシリアの「イスラム国(IS)」への爆撃を強化し、ドイツも空爆には参加しないものの偵察用の戦闘機やフリゲート艦を派遣。また英国はイラクでの空爆をシリアにも拡大して「イスラム国(IS)」を攻撃している。
英国の空爆決定は、作戦に反対する多くの市民の声に抗(あらが)っての苦しい選択だった。批判者の主な論拠は、同国も参加しているイラクでの空爆の成果が上がっていないこと、だった。国論を真っ二つにした議論はシリア空爆開始後もくすぶり続けている。
英国の空気は世界にも伝播していて、いわゆるリベラル派はいうまでもなく、軍事アクションを鼓舞することが多い保守派まで、英国の空爆参加を非難し有志連合の作戦を中止するべきだという論陣を張っている。そうした声に対しては僕は「ならば対案はあるのか?」と問いたい。
対案が「何もするな」であるなら、何をか言わんや、である。それは「イスラム国(IS)」の破壊と残虐を「黙認しろ」と言うに等しい。有志連合の「イ スラム国(IS)」空爆、ひいては掃討作戦に関しては、英国国内に限らず大きな誤解と混乱が世界中にはびこっていると感じる。
アメリカの責任
誤解と混乱とはつまり、「イスラム国(IS)」の今現在の差し迫った危険と、その危険をもたらした欧米の責任を同時に声高に語ることである。この二つが平行して論が進められるために問題の焦点がぼやける。別の言い方をすれば惑乱する。
「イスラム国(IS)」はアメリカと英仏の横暴によって生まれた化け物である。従ってパリ同時多発テロを含む今の世界の混乱の責任は欧米にある。これは疑いようのない事実だ。むろん「イスラム国(IS)」にも責任はある。が、そもそも彼らが生まれなければ、今のテロ戦争は無かった可能性が高い。
それは具体的に言えば米の横暴から起きたイラク戦争と、それを上回る暴虐を発揮しての戦後処理の問題である。ブッシュ(息子)米大統領は、サダム・フセイン指揮下でイラクを支配していたバース党を、戦後に勝手に解体してイラク国家を崩壊させた。
ブッシュ大統領の無知と傲岸によって破壊され尽くされたイラクでは、それまで国家の中枢を担っていたバース党員や周辺の男らが迫害され路頭に迷い、米国ひいては欧米への恨みつらみを募らせて集結した。それが「イスラム国(IS)」の前身だ。
欧米の歴史的横暴
それ以前、第一次世界大戦中には、英国の中東専門家サイクスとフランスの外交官ピコの原案作成による、いわゆるサイクス・ピコ協定の横暴もある。英仏はロシアも巻き込んだその協定を元に、オスマン帝国内で共存していた人々の土地に勝手に国境線を引いて、混乱の元を作った。
やがて欧米は、アラブの土地を取り上げてイスラエルという国まで作った。それは中世から続く欧州によるアラブ世界への横槍の一環に過ぎない。キリスト教を旗印にする欧州は、宗教対立の先鋭化を理由に十字軍を編成してイスラム世界への侵略と抑圧の歴史を編み始め、それは時代と共に止どまるどころか加速して現在に至っている。
欧州は第一次世界大戦以降、中東からの移民を安い労働力として招き入れたが、彼らは差別と偏見の中で苦しい生活を強いられ続け、やがて今の混乱を生むホーム・グロウン(自国民)テロリストらが作り出される事態を招いた。
従ってイスラム過激派のテロを無くすためには、「イスラム国(IS)」を始めとする過激派組織を爆撃するよりも、先ず欧米が過去を反省し中東移民への偏見や差別を無くして、真の寛容と多様性を認める平等な社会を作り上げることが先決である。
欧米の暴虐と「イスラム国(IS)」のそれは切り離せ
前述の考え方の延長で、今「イスラム国(IS)」を叩くのは、欧米が再び過去の横暴を繰り返すことでしかなく、それはアラブの人々の更なる反感を招いて、結局新たな「イスラム国(IS)」やテロリストを生み出すことにしかならない、という議論が多くなされている。それは正論だ。
だが正論は常に時代に合致した正しい行動を呼ぶ訳ではない。シリア空爆に反論を唱える人々は、「イスラム国(IS)」が生まれた歴史的背景と、それを攻撃することから生まれる新たなテロの蓋然性のみを強調して、「今この時の脅威」である過激派組織をどうするのかという議論を避けて通っている。
そこでは欧米への糾弾や批判のみが一人歩きをして、「イスラム国(IS)」への空爆は何が何でも悪であり、不正義だという声ばかりが大きくなっている。それは間違っている。欧米が過去に犯し今も犯している罪と「イスラム国(IS)」の現行犯罪とは切り離して論じられるべきである。
繰り返しになるが、反空爆論や欧米の責任論はそのほとんどが正しい主張である。また「イスラム国(IS)」掃討作戦が新たなテロを生む可能性も否定できな い。いや否定できないどころか必ず別の「イスラム国(IS)」がそこから生まれる。テロは根絶できてもテロの思想は駆逐できないからだ。従ってただ「イスラム国(IS)」を殲滅するだけではなく、過去の過ちを繰り返さないための知恵が求められているのは言うまでもない。
「イスラム国(IS)」は肥大した癌
差し迫った脅威「イスラム国(IS)」はいわば肥大した癌である。癌は早急に削除されるべきである。それが「イスラム国(IS)」を殲滅する、ということ だ。ところがそのことで新たな癌が生まれる、だから行動を起こすなというのは、肥大した癌を放置したまま発癌物質が何だったかを調べたり過去に遡って生活 習慣を正す努力をしたリするに等しい。そんなことを続けていれば、解決策が見つかるはるか以前に患者は死亡してしまうだろう。
現在の「イスラム国(IS)」と世界の関係はそれと同じことだ。なにはともあれ今は癌を根治することが肝心である。欧米中心の有志連合は、「イスラム国 (IS)」を地上から消し去った後、イスラム教徒と中東地域を蹂躙した過去を反省すると同時に、テロの温床となる移民への間違った政策を是正し今度こそ寛 容と多様性が息づく真の平等社会を構築するために動き出さなければならない。
最後に付け加えておきたい。悪魔も顔負けの「イスラム国(IS)」は、イスラム教徒のために一つだけ良い仕事をした。それは欧米と世界の目を、欧米が犯し た過去の大罪に向けさせ、さらに欧州社会におけるイスラム系移民の置かれた理不尽な状況を、欧米各国民自身を含む世界の人々に知らしめたことだ。
暴力と残虐の限りを尽くしている彼らの行為は賞賛されるべきではないし正当化されるべきでもない。しかし、彼らは結果としてイスラム教徒やイスラム系移民 に資する仕事をしたことは否定できない。彼らのおかげで欧米をはじめとするグローバル世界は、今後はもはやイスラムの問題を無視して進むわけにはいかなくなった。
また欧米社会は、かつて英国がやったような三枚舌外交の手口で問題を誤魔化すこともできない。世界はその欺瞞を知った。もう後戻りはできないのである。それは言葉を替えれば、世界がテロの温床を一掃する方向に向かって進む可能性が出てきたことを意味する。「イスラム国(IS)」は再びその部分だけに限って言えば、 良い仕事をした。もうそろそろ消えてもらってもいいのである。
パリ同時多発テロの直後にフランスはシリアの「イスラム国(IS)」への爆撃を強化し、ドイツも空爆には参加しないものの偵察用の戦闘機やフリゲート艦を派遣。また英国はイラクでの空爆をシリアにも拡大して「イスラム国(IS)」を攻撃している。
英国の空爆決定は、作戦に反対する多くの市民の声に抗(あらが)っての苦しい選択だった。批判者の主な論拠は、同国も参加しているイラクでの空爆の成果が上がっていないこと、だった。国論を真っ二つにした議論はシリア空爆開始後もくすぶり続けている。
英国の空気は世界にも伝播していて、いわゆるリベラル派はいうまでもなく、軍事アクションを鼓舞することが多い保守派まで、英国の空爆参加を非難し有志連合の作戦を中止するべきだという論陣を張っている。そうした声に対しては僕は「ならば対案はあるのか?」と問いたい。
対案が「何もするな」であるなら、何をか言わんや、である。それは「イスラム国(IS)」の破壊と残虐を「黙認しろ」と言うに等しい。有志連合の「イ スラム国(IS)」空爆、ひいては掃討作戦に関しては、英国国内に限らず大きな誤解と混乱が世界中にはびこっていると感じる。
アメリカの責任
誤解と混乱とはつまり、「イスラム国(IS)」の今現在の差し迫った危険と、その危険をもたらした欧米の責任を同時に声高に語ることである。この二つが平行して論が進められるために問題の焦点がぼやける。別の言い方をすれば惑乱する。
「イスラム国(IS)」はアメリカと英仏の横暴によって生まれた化け物である。従ってパリ同時多発テロを含む今の世界の混乱の責任は欧米にある。これは疑いようのない事実だ。むろん「イスラム国(IS)」にも責任はある。が、そもそも彼らが生まれなければ、今のテロ戦争は無かった可能性が高い。
それは具体的に言えば米の横暴から起きたイラク戦争と、それを上回る暴虐を発揮しての戦後処理の問題である。ブッシュ(息子)米大統領は、サダム・フセイン指揮下でイラクを支配していたバース党を、戦後に勝手に解体してイラク国家を崩壊させた。
ブッシュ大統領の無知と傲岸によって破壊され尽くされたイラクでは、それまで国家の中枢を担っていたバース党員や周辺の男らが迫害され路頭に迷い、米国ひいては欧米への恨みつらみを募らせて集結した。それが「イスラム国(IS)」の前身だ。
欧米の歴史的横暴
それ以前、第一次世界大戦中には、英国の中東専門家サイクスとフランスの外交官ピコの原案作成による、いわゆるサイクス・ピコ協定の横暴もある。英仏はロシアも巻き込んだその協定を元に、オスマン帝国内で共存していた人々の土地に勝手に国境線を引いて、混乱の元を作った。
やがて欧米は、アラブの土地を取り上げてイスラエルという国まで作った。それは中世から続く欧州によるアラブ世界への横槍の一環に過ぎない。キリスト教を旗印にする欧州は、宗教対立の先鋭化を理由に十字軍を編成してイスラム世界への侵略と抑圧の歴史を編み始め、それは時代と共に止どまるどころか加速して現在に至っている。
欧州は第一次世界大戦以降、中東からの移民を安い労働力として招き入れたが、彼らは差別と偏見の中で苦しい生活を強いられ続け、やがて今の混乱を生むホーム・グロウン(自国民)テロリストらが作り出される事態を招いた。
従ってイスラム過激派のテロを無くすためには、「イスラム国(IS)」を始めとする過激派組織を爆撃するよりも、先ず欧米が過去を反省し中東移民への偏見や差別を無くして、真の寛容と多様性を認める平等な社会を作り上げることが先決である。
欧米の暴虐と「イスラム国(IS)」のそれは切り離せ
前述の考え方の延長で、今「イスラム国(IS)」を叩くのは、欧米が再び過去の横暴を繰り返すことでしかなく、それはアラブの人々の更なる反感を招いて、結局新たな「イスラム国(IS)」やテロリストを生み出すことにしかならない、という議論が多くなされている。それは正論だ。
だが正論は常に時代に合致した正しい行動を呼ぶ訳ではない。シリア空爆に反論を唱える人々は、「イスラム国(IS)」が生まれた歴史的背景と、それを攻撃することから生まれる新たなテロの蓋然性のみを強調して、「今この時の脅威」である過激派組織をどうするのかという議論を避けて通っている。
そこでは欧米への糾弾や批判のみが一人歩きをして、「イスラム国(IS)」への空爆は何が何でも悪であり、不正義だという声ばかりが大きくなっている。それは間違っている。欧米が過去に犯し今も犯している罪と「イスラム国(IS)」の現行犯罪とは切り離して論じられるべきである。
繰り返しになるが、反空爆論や欧米の責任論はそのほとんどが正しい主張である。また「イスラム国(IS)」掃討作戦が新たなテロを生む可能性も否定できな い。いや否定できないどころか必ず別の「イスラム国(IS)」がそこから生まれる。テロは根絶できてもテロの思想は駆逐できないからだ。従ってただ「イスラム国(IS)」を殲滅するだけではなく、過去の過ちを繰り返さないための知恵が求められているのは言うまでもない。
「イスラム国(IS)」は肥大した癌
差し迫った脅威「イスラム国(IS)」はいわば肥大した癌である。癌は早急に削除されるべきである。それが「イスラム国(IS)」を殲滅する、ということ だ。ところがそのことで新たな癌が生まれる、だから行動を起こすなというのは、肥大した癌を放置したまま発癌物質が何だったかを調べたり過去に遡って生活 習慣を正す努力をしたリするに等しい。そんなことを続けていれば、解決策が見つかるはるか以前に患者は死亡してしまうだろう。
現在の「イスラム国(IS)」と世界の関係はそれと同じことだ。なにはともあれ今は癌を根治することが肝心である。欧米中心の有志連合は、「イスラム国 (IS)」を地上から消し去った後、イスラム教徒と中東地域を蹂躙した過去を反省すると同時に、テロの温床となる移民への間違った政策を是正し今度こそ寛 容と多様性が息づく真の平等社会を構築するために動き出さなければならない。
最後に付け加えておきたい。悪魔も顔負けの「イスラム国(IS)」は、イスラム教徒のために一つだけ良い仕事をした。それは欧米と世界の目を、欧米が犯し た過去の大罪に向けさせ、さらに欧州社会におけるイスラム系移民の置かれた理不尽な状況を、欧米各国民自身を含む世界の人々に知らしめたことだ。
暴力と残虐の限りを尽くしている彼らの行為は賞賛されるべきではないし正当化されるべきでもない。しかし、彼らは結果としてイスラム教徒やイスラム系移民 に資する仕事をしたことは否定できない。彼らのおかげで欧米をはじめとするグローバル世界は、今後はもはやイスラムの問題を無視して進むわけにはいかなくなった。
また欧米社会は、かつて英国がやったような三枚舌外交の手口で問題を誤魔化すこともできない。世界はその欺瞞を知った。もう後戻りはできないのである。それは言葉を替えれば、世界がテロの温床を一掃する方向に向かって進む可能性が出てきたことを意味する。「イスラム国(IS)」は再びその部分だけに限って言えば、 良い仕事をした。もうそろそろ消えてもらってもいいのである。