米大統領選に立候補しているお笑い芸人のドナルド・トランプ氏が、イスラム教徒の皆さんの米国入国を禁止するべき、と発言してまた笑いを取ろうとしましたが、突然「いや、もはやこれは笑い話ではない、宗教の自由と寛容と多様性を重んじるアメリカの民主主義に反する」などという批判が噴出して、上を下への騒ぎになっていますね。
メディアがトランプ氏の発言内容を問題視して騒ぐのは重要なことです。なぜなら彼の発言の内容はイスラム教徒を貶めるものですし、偏見や差別や不寛容を奨励しかねない危険思想だからです。アメリカを始めとする世界のメディアは、これまで彼の品性下劣な暴言や罵倒や失言を半ば面白がりながら伝えていました。しかし、今回の発言は「越えてはならない一線を越えた」ものと見なして、一斉に深刻な表情になって氏を批判しています。
メディアの豹変ぶりは見事ですしまた正しい態度だと私は思います。同時多発テロの被害者であるフランスやイギリスのトップも、イスラエルのネタニヤフ首相でさえトランプ氏の発言を糾弾しています。それらにも賛成です。しかし私は、イスラム教徒の皆さんには、決して過剰反応をすることなく、相変わらずのお笑い発言だとみなして泰然としている方がベスト、とアドバイスをしたいと思います。
なぜならトランプ氏の発言は、今述べたように差別や抑圧につながる危険且つ汚れたものであると同時に、やはり馬鹿げたお笑い芸人の「お笑い発言」の域を出ないものだと考えるからです。そんな言葉に過剰に反応するのは、「イスラム国(IS)」の思う壺にはまることです。トランプ氏の発言の深刻な側面は、メディアの批判と管轄にまかせて、当事者のイスラム教徒の皆さんは静観した方が良いと思うのです。
トランプ氏の声高な呆れた主張は、いわゆる「能無しの高吼え」 です。吼える犬がめったに噛みつかないのと同じで、よほどのことがない限り実力行使には至りません。なぜならその実力が無いから。彼はその実力もないのに過激な発言をするから注目されているだけです。もちろんこの先に天地がひっくり返って、彼がアメリカ大統領に選ばれれば話は別ですが。
彼が当選するような事態は天地がひっくり返るほどの事件だと私は思います。もしもそんなことになった場合は、民主主義大国アメリカが崩壊する時ですから、もはや差別も偏見も自由も正義もありません。世界中のわれわれは等しく「イスラム国(IS)」の支配下に入って、恐怖と絶望と暗黒の中で生きる毎日を強いられていることでしょう。
しかしながらトランプ氏の主張に賛同したり影響されたりする愚者は必ずいます。その意味では彼の発言は封じられた方がいい。しかし、言論封殺は民主主義社会では断じて受け入れられません。従って彼は今後も同様の愚劣な発言を続ける可能性があります。その時も皆さんは静観した方がいい。もちろん昨今の皆さんの受難、特に欧米社会において頭をもたげつつあるイスラムフォビア(嫌悪)や、従来から蔓延する偏見や差別に対しては断固として抗議の声を上げ行動するべきです。
だがトランプ発言のような、馬鹿げた、且つ皆さんが黙っていてもメディアが騒いでくれるような事案には口を噤んだ方がいいのです。なぜなら彼の発言は数字で言えば1割の賛同者を呼ぶネガティブな影響があるかもしれませんが、うまくいけば9割の人々に問題や論点を知らしめ反省を促す効果もあります。そうした効果はメディアが騒げば騒ぐ程大きくなり、さらにポジティブに働きます。
もう一つ例を挙げます。「イスラム国(IS)」は中東で殺戮を繰り返すという悪事を働くと同時に、彼らとイスラム教徒が同じものでもあるかのような誤解と錯覚を世界中に与えました。今も与え続けています。しかし、彼らはまた彼らの悪を撒き散らすことで、その悪を生んだ欧米の身勝手な歴史とイスラム教徒やイスラム系移民が置かれた理不尽な立場に世界の人々の目を向けさせる、という極めて有意義な役割も果たしました。トランプ発言にはそれと似た効用もあります。彼の馬鹿げた発言は皆さんの味方でもあるのです。私はイスラム教徒の皆さんと連帯していくことをここで表明すると同時に、ドナルド・トランプさんありがとう、と心の中で言おうとさえ思います。