2月1日、米大統領を選ぶ予備選挙が始まった。米50州の先頭を切ってアイオワ州で民主党と共和党の候補者選択が行われ、共和党では事前の予想を覆してドナルド・トランプ氏が敗れた。

勝ったのは保守強硬派とされるテッド・クルーズ氏。また保守本流といわれるマルコ・ルビオ氏がトランプ氏から僅差で3位に入った。ルビオ氏は選挙前には、大きく引き離されての3番手という予測だったから、これも番狂わせと言えるだろう。

トランプ氏が負けたことは驚きではない。彼が快進撃を続けていた昨年から僕は彼が最終的には失速すると見てきた。それは第一回目のアイオワで始まる可能性が大いにあると思った。僕に先見の明があったのではない。過去のアメリカの大統領選挙では普通に起こったことだからだ。

事前の討論や選挙運動を通して優勢だった候補がアイオワ州で躓いたり、逆にそこでの勝利をきっかけに快進撃を続けて候補指名を受け、大統領にまでなるケースが良くある。

例えば2008年には民主党の最有力候補と見られたヒラリー・クリントン氏が、現大統領のバラック・オバマに敗北してそのまま沈んだ。逆に言えばオバマ候補は、アイオワで勝って「オバマ旋風」を巻き起こし、最終的に勝利して第44代アメリカ合衆国大統領になった。

共和党のトランプ氏がアイオワで負けたのは、彼の勢いの終焉が近づいたのだろうと思う。人種差別や排外思想を振りかざす彼を、米国の良心が必ずブロックすると確信するからだ。

民主党は圧倒的に強いと見られたヒラリー・クリントン氏が、僅差ともいえないほどのわずかな差で左派のサンダース氏に勝った。サンダース氏の追い上げはすさまじく、こちらも番狂わせ並みの結果で、民主党のレースも分からなくなった。

ただクリントン氏は、紙一重の差とはいえアイオワ州で勝利を収めたことで、2008年の悪夢から覚めて、メール問題ほかの障害を抱えつつも、今後快進撃を始めるかもしれない。

共和党も最終的に誰が候補に選出されるかは分からない。が、トランプ、クルーズ、ルビオの3氏の争いに絞られた、とは言えるだろう。トランプ氏はそこで突然、最も脆弱な候補になったように見える。

クルーズ氏はアイオワ州での勝利を目指して何年も前から地道に選挙運動を続けてきた。そこが重要な場所だと知っていたからだ。彼は今回の勝利を足がかりに共和党候補になるかもしれない。

だが、事前には注目度が低かった若手のルビオ氏の突然の台頭も見逃せない。彼はいわゆる保守の主流派だ。あるいはルビオ氏がアイオワ州での番狂わせの最大の享受者、つまり最終的な勝者となる可能性も大いにある。

ここまではトランプ氏が、共和党のいわゆる主流支配層に楯突く極論を振りかざして同党内で支持を集めてきた。が、いよいよ風向きが変わったように見える。

再び、共和党では誰が勝つかは分からない。だが、トランプ氏が負けることは間違いない、と僕は相変わらず考えている。天地がひっくり返ってトランプ氏が共和党で勝っても、彼は決戦では民主党候補に敗れるだろう。

しかし、トランプ氏以外の候補者が共和党で選出された場合には、民主党候補を破って大統領になる可能性はもちろん十分にあると思う。つまり、「まともな」候補者同士の戦いでは民主・共和両党ともに互角だ。

それどころか、保守本流を自他共に認めるルビオ氏が共和党候補になって、たとえば民主党の相手がクリントン氏になった場合には、むしろ彼の方が有利である可能性が高い。

なぜなら「弱いアメリカ」を演出してきたオバマ民主党政権への反発は米国内に強いと考えられ、そのオバマ政権の後継と見られるクリントン氏に逆風が吹きつける可能性は決して低くないからだ。