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日本での報道は少なくなり勝ちのようだが、中東から欧州に流入する難民は途切れることがない。4月11~12日の2日間で、イタリア沿岸警備隊と海軍はリビアからの難民4000人余をシチリア海峡で救助、保護した。ほぼ同日、オーストリア政府は難民の流入に備えるためという名目で、同国とイタリアとの国境線にバリケードを設置。5月からの運用を目指している。

オーストリアは最近まで北欧やドイツと並んで難民に寛大な政策を取ってきた。しかし、急激に増え続ける難民に恐れをなして、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー 、フランスなどと共に難民の流入ルートの一つであるハンガリーとの国境を閉鎖して検問に踏み切った。そこに加えてもう一つのルートであるイタリアとの国境にも同様の施策を始めた。

イタリアとオーストリアを含むEU(欧州連合)は、今月に入って「不法」とされる難民・移民をトルコ政府との合意の上で同国に強制送還し始めた。2015年にトルコを経由して欧州に向かった難民は85万人にのぼる。このうち強制的に送還されるのは今年3月20日以降にギリシャに到着した者のうち、同国で難民申請をしなかった者やいわゆる経済移民など。

EUは同時にシリアなどからの「合法」的な難民を受け入れる措置も進めていて、強制送還を実施した同じ日の4月4日には、ドイツがトルコ国内にいたシリア難民を受け入れて定住させる処置をとった。そうした動きは難民の受け入れを拒否している中東欧諸国を除いた欧州地域では普通の光景である。

先日、中東欧の反難民国の中で最も過激な政策を取っているハンガリーを訪ねた。ハンガリーは中東や北アフリカからの難民がやって来る隣国のセルビアやクロアチアとの国境を閉鎖している。そればかりではなく、同国のオルバン首相が「難民は欧州の問題ではなくドイツの問題だ」と言い放つほど難民嫌いを隠さない国である。

ハンガリーの強い難民アレルギーを示すエピソードは枚挙にいとまがない。前述のオルバン首相は「欧州は難民の故郷にはなりえない」とも発言し、ハンガリーの女性ジャーナリストが子供を抱いた難民の男性に足をかけて転倒させた事件は、SNSなどで爆発的に拡散されて世界中に知れ渡った。

またハンガリーではセルビア国境を越えてきた子供が虐待に遭ったり、難民収容所で警官がまるで動物に対するように人々を扱う姿が目撃されたりするなど、道義的に疑問を抱かせるばかりではなく国連やEU規則にも反していると批判される不祥事や逸話が多い。

かつてソ連の庇護の下にあった元共産主義の中東欧国には、ハンガリーに限らず人種差別にあまり罪悪感を感じない人々が多く住むという説がある。そうした人々のほとんどは、第二次世界大戦中のドイツ人やオーストリア人などと同様にユダヤ人を虐殺したり、虐殺に手を貸したりなどしてナチスにぴたりと寄り添い協力した過去を持っている。

それにもかかわらず、戦後は共産主義世界に組み込まれて戦時の総括をしないままに日を過ごした。やがてソビエト連邦が崩壊し、現在ではEU(欧州連合)のメンバー国にまでなる幸運を得ながら、先の対戦への総括がなかったために昔風の反ユダヤ主義やムスリム嫌悪やアジア・アフリカ差別などの心理を払拭できずにいるというのである。

そうした国民感情は先の大戦への徹底総括がないままに歴史を刻んできた日本などにも通じるものである。ただ難民問題だけに限って言えば、彼らの頑なな嫌難民言動はそれぞれの国の脆弱な経済も影響しているように見える。貧しい者は難民を助ける経済的な余裕がなく、故に彼らへの親和感や博愛や憐憫の情を育む心の余裕もないケースが多い。

その点、例えばドイツやオーストリアなどの西側諸国は、経済的に強いために比較的柔軟に難民への協力や援助や寛容な施策などを取ることができる。加えてそれらの国々の住民の心の中には、戦時中にユダヤ人を徹底的に迫害したことへの強い引け目がある。だからなおさらその傾向が強くなるのだろう。

オーストリアとハンガリーに限らず、ここイタリアを含むEU諸国の全ては中東難民を巡る試練と駆け引きと攻防の渦中にある。イタリアは国境閉鎖には踏み切っていないが、オーストリアとハンガリーは前述したように一部の国境を封鎖したり検問をや監視を強めたりしている。

シリアを始めとする中東などからの難民はトルコを経由してギリシャに渡り、そこから北上を開始する。いわゆるバルカンルートである。そこを通って昨年だけでも90万人近い難民が欧州に入った。バルカンルートの混雑は、前述のハンガリーなどの反難民国の国境封鎖や、ドイツ、オーストリアに代表される「かつての難民抱擁国」の変節で今後は少なくなるかもしれない。

しかし、欧州へのもう一つの流入経路である「地中海・イタリア」ルートは、閉鎖がほとんど不可能な海の道である。夏に向かって天気が安定するに従って、そこにはこれまでのチュニジア経由の難民に加えて、バルカンルートを閉ざされた人々が殺到する可能性がある。

地中海からイタリアに流入する難民をイタリア一国で受け入れたり対処したりするのはほぼ不可能と言ってよい。欧州、特にEU(欧州連合)の国々はイタリアと協力してこの大問題に対処できるのか問われている。それは欧州統合を目指すEUが結束して未来に向かうのか、ここで崩壊するかの瀬戸際にあると断言できるほどの重要な局面である。