ハンガリー国境警察800pic
オーストリア・ハンガリー国境で検問するハンガリー警察

仕事でウイーンを訪ねたついでにブダペストまで足をのばした。前の記事で書いたように、オーストリアもハンガリーも中東難民に端を発したバトルの渦中にある。

オーストリアは難民の流入を防ごうとしてハンガリーやイタリアとの国境監視を強化。ハンガリーは隣国のセルビアとクロアチアとの国境を閉鎖した。

オーストリアとハンガリーに限らず、ここイタリアも含めたEU諸国のすべては、中東難民をめぐって責任の押しつけ合いなどの駆け引きをくり返している。

イ タリアは国境閉鎖には踏みきっていないが、今後地中海が再び難民で騒がしくなればどうなるか分からない。国境地帯はどの国も熱い。

と思いきや、熱いのは基本的に欧州西側諸国の南と東の国境線の一部。その他の国境は-あくまでも仕事の旅程内での見聞だが-シェンゲン協定に守られていて自由に行き 来できる。

またそれぞれの国内も、熱い国境線のまわりを別にすればほとんど混乱は見られない。今回訪ねたウイーンとブダペストも平穏だった。

イタリアとオーストリアの国境では、検問どころか車両を減速させなければならないような障害もなく、スムーズに車が通行できた。

しかしオーストリアとハンガリーの国境では、ハンガリー側の警察が出て高速道路の通行証のチェックを丹念に行っていた。

ハンガリーの高速道路の通過料金は一律で、支払い証明チケットをフロントガラスに貼りつけることが義務づけられている。

外から確認できて、且つ使いまわし しなどの不正防止が目的という。しかし、それだけのために実施されていた物ものしい警備は、やはり国境監視の意味合いが強いものにも見えた。

それでもハンガリー国内に入ると、首都ブダペストを始めとして、国境の喧騒はいったいどこの国の話だろう?と首をかしげたくなるほどに平穏だった。

ブダペ ストを経て2日後にスロベニアの国境も通ったが、そこにも検問や封鎖はなく、シェンゲン協定通りに自由に通り抜けることができた。

もっともトルコ経由でハンガリーに入る難民は、ほとんどがセルビアとクロアチアを経てやって来るため、ハンガリーが神経をとがらせているのはその2国との 間の国境線である。

従ってスロベニア国境はあまり関係がないとは言える。それでも少しの監視強化があるのではないか、と思っていたから完全な自由通行は意外だった。

スロベニアとイタリアの国境も同じ。どこからどこまでがスロベニアでどこからがイタリアなのか、気をつけて確認しないと分からないほど2国はシェンゲン協定の枠内で同化している。

同化というのは言い過ぎかもしれないが、そう形容したくなるほどの静かな国境通過だった。これがシェンゲン協定の真髄。

それは欧州の平和の象徴であり同時に現実でもある。長い血みどろの歴史を経て獲得した、世界にも拡散されるべきヨーロッパの英知を、決して崩壊させてはならない、と腹から思う。