オーストリアとハンガリーではウイーンとブダペスト以外にもいくつかの街を訪ねた。だが、ここでは今回の旅の主役だった二つの首都について少し語っておこうと思う。
音楽の都ウイーン。ドナウの真珠ブダペスト。どちらも魅惑的な街だった。旅人としてのあたりまえの僕のセンチメントは、初めて訪れた2都市の芳香にふるえた。
ただウイーンはデジャヴが多く、イタリア人の友人らが言う「ロマンチックな街」という形容がよくわからなかった。また日本人が口にする「きれい」という表現も自分にはしっくりこなかった。
ロマンチックな街もきれいな街も、特に欧米で多く見てきたから「ウイーンだけが格別」というふうには僕には正直感じられなかったのである。
ならばウイーンはつまらない場所かというと、それはまったく当たらない。楽都は華やかで訴求力に富んだすばらしい街だ。
でも「純粋に遊びだけでもう一度で訪ねたいか」と聞かれれば、僕はあまりそういう気にはなれないと答える。これは好みの問題だから仕方がない。
僕はここヨーロッパでは、北欧やゲルマン系の景色や文化より も、ラテン系や地中海系のそれに強く魅かれるのだ。だから僕はイタリアにいる。
ラテンでも地中海系でもないが、ブダペストには大きな魅力を感じた。街のたたずまいや建物群が北欧を含むかつての西側欧州とは違う。
独特で重厚だが同時に軽快でもある、という多様でさわやかな空気を感じた。建物では特に屋根の造りや瓦の色にきわめて独創性を見た。それらもすがすがしく鮮烈で楽しい。
土産物屋や市場などで見た手工芸品の多くにも、創造性が豊かで遊び心に満ちた美質を多く発見した。それはとてもおどろきだった。
イタリアやスペインあるいはフ ランスなどに通じるクリエイティブと活発と爽やかさが充満しているのだ。それらがとても好ましく、もう一度訪ねたい気分にさせられた。
個人的な興味では食べ物のサラミにも目が行った。ここイタリアには、全てをまとめて「サルーミ」と呼ぶ数え切れないほどの加工保存肉がある。
中でもプロシュット、つまり生ハムがもっとも知られていると思うが、さらに種類が多いのがサラミやサラミ系の加工肉である。それらは土地によっても味や形や人々の思い入れがすべて違う。
僕はサラミがワインと同じくらいに好きで、どの土地に行っても特産品を試食し購入し本格的に食べる。しかもサラミだけを直接食して楽しむ。イタリア人のようにパ ンに挟んで食べた りはしない。
サラミは単独で食べると体に悪いとされる。が、僕はまったく気にしない。それほどサラミが好きだ。サラミは欧州の酒の、つまりワインの肴(さかな)としては最善のものだと感じる。
イタリアで売られているサラミは、ほとんどの場合全てイタリアのものである。僕が知る限りイタリアで生産販売されている外国のサラミは一種類しかない。
それが豚の脂をハンガリー風に細かく切り刻んで練りこむ一品、その名もハンガリー・サラミ(salame ungherese)である。ウインターサラミという別称もある。
ブダペストで購入した正真正銘のハンガリーサラミ 美味い!
とは言うものの、実はそれはイタリアテイストのハンガリーサラミである。いわば日本風のカレーや日本風のチャーハン(広東飯)にもたとえられるべきもの。
そのルーツはハンガリーかもしれないが、もはや名前だけが残って中身は似て非なるものである。要するに外国発祥のイタリアサラミの一種なのだ。
ハンガリーにはイタリアに根づいた「ハンガリーサラミ」以外にも多くの種類のサラミがある。僕はそれらをできる限り試食してみた。どれも美味だった。
ブダペストのサラミは「サラミフ リーク」の僕を“う~ む”とうならせる素晴らしい品ばかりだったのだ。それはちょっと大げさに言えば、もう一度ブダペストを訪ねたい理由のひとつに加えたいほどのうれしい体験だったのである。