イタリア中部地震の余震が続く中、崩壊した家の瓦礫の下に閉じ込められていたゴールデン・レトリーバー犬「ロメオ」が9月2日、9日振りに助け出されて人々に感動を与えた。だが残念ながら犠牲者の数はまた増えて9月6日現在295人に上り、行方不明者もいることからその数字はさらに大きくなると見られている。

混乱は収まらないものの、被災地復興への動きは待ったなしで始まろうとしている。しかし不幸なことに例によって、復興事業に群がるかもしれないマフィア他の犯罪組織の影が忍び寄って、人々の不安を募らせている。それを受けてマフィア・テロ担当のフランコ・ロベルティ検事長は、瓦礫や塵芥の撤回作業また仮設住宅建設などの復興事業に、犯罪組織が入り込まないようにしっかり防御することが最重要課題であり、308人が犠牲になった2009年のラクイラ地震では、この防御策がうまく機能して犯罪組織は締め出された、と語った。

検事長の見解が正しいなら、イタリアの土建業者は、マフィアを始めとする犯罪組織の侵入が無くても、十分に不正や偽造や偽装や詐欺行為を行うことができる、ということを証明している。なぜならばラクイラ地震では、石造りの多くの古い建物のほかに、当時としては比較的新しい建物なども崩壊した。それらの新建築は過去の地震の教訓からより厳しい耐震構造によって建てられているはずだった。それでも破壊された。耐震偽装工作が日常茶飯事だったからだ。

2009年の苦い体験を経て、耐震基準はさらに強化されたと言われてきた。それなのに今回地震でも崩壊する建物が続出したのは、相変わらず耐震偽装の建築物が多く建てられてきたからではないのか。そして今後の復興事業においてもまた、過去の事例から推断して、たとえ犯罪組織の介入を防ぐことができても、業者による不正がまかり通る可能性も高いと見なければならない。

度を過ぎた風刺や皮肉で人々の眉をひそめさせるのが得意なフランスの週刊新聞「シャルリー・エブド」は、イタリア地震の被災者をパスタのラザーニャにたとえるなどして批判を浴びた。それはまっとうな批判である。シャルリー・エブドは時として言論の自由をはき違えているとしか思えないような行過ぎた風刺に走る。いや、それは往々にして風刺でさえなく、ただの悪趣味なジョークであったりする。

今回の漫画もその類の下卑た作品だった。ところが同紙は、国際世論の批判に反発する形で「(地震で崩壊した)人々の家を建てたのはシャルリー・エブドではなく、マフィアだ」と弁明する新たな漫画を掲載。耐震偽装の悪徳土建屋と地域の有力者がつるんで、マフィアなどの犯罪組織を呼び込むイタリア独特の癒着の構造を辛らつに風刺し、それにも多くの批判が集まった。

しかしながら僕は後者の批判には同調しない。震災のような巨大な不幸に付け入って、汚れた利益を貪る犯罪者やその片割れの不正事業者がはびこる現実を「マフィアが家を建てた」と形容するシャルリー・エブドの姿勢を、完全に悪趣味と切り捨てる気にはならないのだ。被災者や被災地の不幸を嘲笑うかのようなゲスな風刺画は言語道断だが、不正の存在を指摘して注意を喚起しているとも言える「マフィアが家を建てた」の風刺画とコメントは、評価してもいいのではないか、とも思うのである。

イタリアの耐震関連の法律は1970年代から整備が開始されて、2000年代には改善に拍車がかかったと見られてきた。しかしその適用対象は新築建造物に限られたため、歴史的建造物に代表される古い建築物の耐震化が常に大きな課題として残ってはきた。それでも、前述したように、少なくとも新築の建造物に関しては、法整備が明確に進んだと考えられていた。

特に今回の被災地のすぐ近くにあるラクイラ地方で、死者308人を出した2009年の「ラクイラ地震」以降は、規制がさらに厳しくなって新築の耐震法整備はほぼ完成したとさえ考えられていたのだ。しかし、結果は無残なもので、一部の地域には法整備の効果が確認されたものの、またもや家屋倒壊などの大きなダメージが広がった。古い歴史的建造物の被害はさておいても、最新の耐震設計に基づいて建築されたはずの建造物が、あっけなく崩壊する現実が人々を「再び、再三、再四」戦慄させたのである。

今回の地震で破壊された小学校校舎を含む全壊また半・損壊した建物およそ
120軒は、工費を節約するためにセメントよりも砂を多く使用して建築された可能性があると見られている。これを受けて地元の検察当局は8月31日、耐震偽装や手抜き工事の解明のために早くも強制捜査に乗り出した。

地震の多い日本やイタリアなどでは、震源の深さなどの諸条件にもよるが、マグニチュード6.2クラスの今回のような地震では大きな被害は出ないのが普通である。複雑な地質構造のイタリアでは、マグニチュード6.3以上の地震が平均して15年に一度程度発生してもおかしくないとされ、それよりも弱い揺れの地震はもっと盛んに起こる。

地震多発地帯では、耐震の概念が少ない場合には建物に大きな損傷が発生し、従って人的被害も増える。だがイタリアは地震頻発国であり、過去の多くの地震の歴史と近年の度重なる地震被害を受けて、たとえば日本ほどではないにしろ、「耐震」の意識は高まっていた。そんな折に、最大級の揺れとは言えない地震がまたもや大災害につながったのは、不本意ながらやはり、不正や耐震偽装などの重篤な“イタリア病”が最大の原因である、と考えざるを得ないのである。