《書こうと思いつつ流れてしまった時事ネタは多い。そこで、いつものように、できれば将来どこかで言及したいという意味も込めて、自分にとって引っかかる出来事の幾つかを列記しておくことにした》
オリンピックのこと
先月終了したリオ五輪に対してはイタリアは例によって“大いなるぬるい”盛り上がりを見せた。五輪に対するイタリア人の冷めた反応は今に始まったことではない。彼らは例えばサッカーのW杯や7月に終わったサッカー欧州選手権などでは、ちょっと大げさに言えば「国中が狂喜乱舞する」みたいな盛り上がりを見せる。が、オリンピックに際してはいつも冷静である。その理由については既に書いたのでここでは言及しない。日本の盛り上がり振りは民族主義の過剰な表出のようにも見えてどうかと思うが、イタリアの冷め過ぎた反応にもいつも少し違和感を覚える。やはり日本とイタリアの中間あたりの反応が一番しっくりくるような・・
葬られたリイナ本
マフィア史上最強の殺人鬼、とも形容されるボスの中の大ボス、トト・リイナの息子サルヴッチョことジュゼッペ・サルバトーレが、先頃本を出版した。ところがその内容がマフィア首魁の父親をたたえ、家族の結束や愛情を書き連ねたものだったので、世論が反発。不買運動が起こって本屋は彼の本を店頭に置かない事態に。著者のサルヴッチョを招いて報道番組に登場させたイタリア公共放送のRAIにも強い批判が集まった。批判精神ゼロの番組内容が視聴者の怒りを買ったのだ。サルヴッチョは自身も犯罪人。5年前に約9年の懲役刑を終えて社会復帰している。その男の書いた本が市場から締め出されたのは行き過ぎの感もあるが、批判精神の欠落したRAIのオチャラケ番組などは糾弾指弾されても仕方がないだろう。
イタリアからオリーブ油が消える?
サッカー欧州選手権まっただ中の7月はじめ、イタリア・プーリア州のサレント半島に滞在していた。プーリア州はイタリア最大のオリーブ油の故郷。総生産量の3割強を生み出す。ところが3年前、州内でも重要生産地であるサレント半島を中心にオリーブの木が枯れるピアス病が大流行。甚大な被害が出ている。 僕は以前、その近辺でオリーブを話の中心に据えたNHKの紀行番組を作った経験がある。各種要素を入れ込んだ内容だったが、その中でもっとも感動したのは何百年もの樹齢を誇るオリーブの大木や古木のたたずまいだった。今回プーリア州を訪ねてみると、かつて僕が感動した木々と同種の大木たちも多くが立ち枯れていた。深いショックを受けつつ僕はデジカメのシャッターを押し続けた。それからおよそ2ヶ月後の2016年9月現在、オリーブを痛めつけるピアス菌感染症は引き続き強い勢力で蔓延している。
ブルキニ狂想曲
フランスのリゾート地の首長がイスラム教徒の女性の水着「ブルキニ」の着用を禁止する、と発表して大きな議論を呼んだ。フランスは2011年、公共の場でのブルカを禁止する法律を定めた。そこには正教分離あるいは世俗主義を国是とするフランスの大義名分があった。宗教は個人的内面的なものであり、その自由は完全に保障される。同時に公共の場では宗教性は徹底して排除されなければならない。いわゆる「ライシテ」の考え方だ。その是非や好悪は別にして、公共の場で宗教の特殊性あるいは示威性をひけらかすことを禁じる姿勢は、フランスのひいては欧米社会の開明性を担保するものだった。だがブルキニの着用を禁止する条例にはそんな哲学など微塵もない。それは女性イスラム教徒への差別と抑圧以外の何ものでもない。田舎者の首長らはISのテロなどを糾弾する一環として条例を出したつもりなのだろうが、中身はISと同じ不寛容と憎悪が満載のトンデモ条例だった。幸いそれはフランス最高裁で否定されたけれど、余韻は今後も消えるどころか強く鳴り響き続けるだろう。なにしろ条例は地方裁判所ではいったん支持されたのだから。