偏見は「遍在」し差別は「偏在」するものである。

言い方を変えれば、あまねくどこにでもあるのが偏見。ある一点に集中して存在するのが差別、ということである。偏見は差別を生み、差別があるところには偏見が自然発生的に生まれる。

それでいながら二つの概念は酷似している。あるいはほぼ同一のものでもある。このうち偏見は割と理解されやすいコンセプトだが、差別はそれよりは見えにくい現象だと考えられる。

少し具体的に説明してみたい。たとえば僕はハゲである。まだ完全ではないが、髪の毛はかなり後退し薄くなって、それは日々進行している。父も祖父も完パゲのハゲ家系なので、おそらくつるつるになるはずである。でも気持ち的にはもう完全にハゲの気分、あきらめ気分。憂鬱状態。

そんな僕は、ハゲに対する偏見が世の中には結構蔓延していると感じる。差別とは言えないかもしれないが、嘲笑を含む強い偏見は確かにある。それは日本により強く、イタリアにはそれ程ではないが、それでもやはり存在している。

そしてさらに言えば、もしも僕がハゲでなかったならば、僕はそれ程ハゲという言葉や、ハゲに偏見を持つ人々の態度に敏感になったり、傷ついたりはしなかったはずなのである。

同様なことが、あらゆる身体的特徴や、仕事や、出身地や、国籍や、家族構成(一人っ子はわがままなど)等々に対してなされるのが人間社会である。偏見のない社会など存在しない。

日本にいるとわかりずらいかもしれないが、日本人であることで偏見の目を向けられた体験のない外国住まいの日本人はいないだろう。もしもその体験がないなら、その人はかなり鈍感である。

あるいは、もしもその人がイタリア住まいなら、日本と日本人が好きなイタリア人だけと付き合っている(付き合っていれば済む)、ラッキーな人だからである。世界には日本や日本人が嫌いな人も残念ながら多くいる。

差別は偏見がさらに進んで悪意が増幅したものである。あるいは偏見が変形したものである。偏見は差別する者同士の間でも起こり、差別される者同士の間でも起こる。

これに対して差別は、「差別する者」と「差別される者」に2分化される。「遍在」する偏見とは違い、差別は2分割されるからその分社会が分断される。だから差別は「偏在」するとも言える。

偏見や差別には憎悪と痛みが伴うが、そのうちの痛みは偏見や差別を「受ける側」だけが感じるものである。偏見を投げる者や差別を「する側」には痛みはない。だから偏見も差別もそれを「する側」の感情は関係がない。「される側」の感情だけが問題である。

なぜなら痛みがあるのは異常事態であり、痛みがない状態が人間のあるべき姿だ。従って偏見や差別を「される側」のその痛みは取り除かれなければならない。

という風なことを僕はよく考える。そこで沖縄県高江のヘリパッド建設現場で起きた機動隊員による「土人」発言にからめて、発言が差別意識から出たものという「前提」で一つの記事を書いた。たくさん書く記事のうちの一つに過ぎないが、それが差別という重いテーマなので書いた僕も、たぶん読む読者も、気分はユーウツ状態である。、

「事件」を起こした機動隊員は抗議者の暴言や暴力にさらされて、極度の緊張状態の中で売り言葉に買い言葉よろしく、とっさに「土人」と口走ってしまった事案だろうと思う。つまり失言だ。従って彼を差別主義者と一方的に責め立てるのは酷である。人間誰しも失言もすれば間違いもおかす。

しかし、同時に彼は事もあろうに、基地の加重負担が一向に解消されず、むしろ悪化している現実をもはや「差別以外のなにものでもない」と憤っている人々が群がる場所で、再び事もあろうに差別用語の「土人」と口走ってしまった。

せめて「このハゲ!」とか「この早漏ヤロー!」とか「短小包茎!」とかで済ませられなかったのかね。頼むよ、ホントに。それらの言葉はもちろん差別的な言語だ。そこまではいかなくとも不快用語だ。しかし「土人」よりはまし、と思うのが僕の偏見である。

そうやって言った本人も、言われた芥川賞作家の目取真氏も、目取真氏の背後にいる沖縄県民も、そして彼ら以外の全ての日本人にとっても、見たり聞きたりしたくない不快な事件が始まり、まだ続いている。

こうした事態に遭遇した場合には、バカバカしい、話が大げさになり過ぎている、などとして見過ごすのも手だが、僕はこの際「事件」を正面切って取り上げて議論をするべき、と考えたので敢えて刺激的な言葉も用いつつその記事を書いた。

そういう記事には賛同する人ももちろんいるが、多くの批判や反論や中には誹謗中傷の類も投げつけられる。公に意見を言うのだからそれはもちろん覚悟の上だが、結構疲れるというのも正直な気持ちである。

そこで僕は ----この直前のエントリーでも書いたが---- しばらくは自分らしい「政治抜き」の話に集中して、書くなら楽しみながら書けるテーマだけを書こう、 などと考えている。

暇があってヘビーな話にも興味がある人は:

http://blog.livedoor.jp/terebiyainmilano/archives/52230744.html

を覗いてどうぞ憂鬱になって下さい。