トランプ裸電球光の上向き250yoko


トランプさんが米大統領選挙を制した。まさか、というか、やっぱり、というか、あっぱれトランプさん。

僕は選挙戦の始めからほぼ一貫してトランプさんの敗北を予想してきた。

ほぼ、というのは一時期トランプさんの優勢を意識して、もしかすると勝つかも、と感じそういう趣旨のブログ記事を書いたりもしたからだ。

それでも内心はヒラリーさんの勝利を疑ったことはなかった。僕は選挙予想では徹頭徹尾スベリまくったのである。

ではそれに恥じ入っているかというと、全く恥じてなどいない。

排外思想や人種差別を旗印に戦ったトランプさんの前には、自由と平等と寛容を強く支持するもう一方の米国人有権者が立ちはだかっている、と信じて疑わなかったし今も疑わないからである。

彼らの数はいわゆる白人労働者階級の人々のそれに及ばなかった ---むろんそれだけが要素ではないが、話をわかりやすくするために、そう定義して話を進めようと思う--- で、だからヒラリーさんは負けた。

それは厳然たる事実だ。だから僕は選挙の結末を見誤った不明を率直に反省しようと思う。また、選挙に勝ったトランプさんと支持者の皆さんには、心から「おめでとう」と言おう。

だが僕はトランプさんを認めない。認めない、という言い方は、大上段に振りかぶったようで少し不遜かもしれない。ならば彼は、第45代アメリカ合衆国大統領にはなるものの、その資格はないと考える、と言い直そうと思う。

トランプさんは就任後、有能な大統領に化ける可能性ももちろんある。アメリカを建て直し、中東からISを追い出し、欧州や日本などの同盟国ともうまくやっていくかもしれない。

だが彼は、「差別や憎しみや不寛容や偏見を隠さずに、汚い言葉を使って口に出しても構わない」という考えを人々の頭に植え付けてしまった。

つい最近、つまりトランプさんが選挙キャンペーンを始める前までは、タブーだった「罵詈や雑言も普通に許される」という間違ったメッセージを全世界に送ってしまったのだ。

それはつまり、人類が多くの犠牲と長い時間を費やして積み上げた、「差別や憎しみや不寛容や偏見を是正する努力こそ重要だ」というコンセプトを粉々に砕いてしまったことを意味する。

その罪は重い。彼の愚劣な選挙キャンペーンによって開けられたパンドラの箱は、もう閉めることができない。トランプさんはその一点で糾弾され続けなければならない。

「本音を語ることがつまり正直であり正しいこと」と思いこんで、本音の中にある差別や偏見から目をそらす者は、さらなる偏見や差別思想にからめとられる危険を犯している。

それがトランプさんであり、彼のレトリックであり、トランプさんとレトリックを信じる彼の支持者や賛同者である。

差別ヘイトスピーチは、正直なことだからまっとうな態度である、という間違ったメッセージが今後は欧州にも、アジアにも日本にも、その他の全ての世界にも急速に拡散して行くだろう。

そこでは人々の意識の後退のみならず、政治的な悪影響も避けられない。彼の勝利はさらなる負の波紋を世界に広げることが確実だ。波紋は真っ先にここ欧州の極右勢力に到達するだろう。いや、もう届いている。

人種差別と不寛容と憎悪を旗印に政治主張を続けてきたフランスの国民戦線を始め、イギリス独立党、イタリア北部同盟、オーストリア自由党、ギリシャ黄金の夜明け、東欧各国のナショナリストなどの極右勢力が、トランプさんの当選を喜んでいる。

ここイタリアに関して言えば、与党民主党と並んで国内政治勢力を2分する「五つ星運動」も、トランプさんの躍進を小躍りして歓迎している。彼らは極右の北部同盟とは毛並みが違うように見えながら、『反EUと親トランプ』のスタンスで相通じているのだ。

北部同盟と五つ星運動が手を組めば、イタリアのEU離脱はふいに現実味を帯びたものになる。英国に続いてイタリアがEUから離脱すれば、欧州連合はたちまち崩壊の危機に直面するだろう。

EUの分断は世界の分断と同じ、と言っても過言ではない。それは世界がますます不安定化し、格差が広がり、不満と怒りが充満していくことを意味する。危険なトランプさんは、危険な世界への入り口である可能性も高いのである。