看板+grillo大げさに驚く
ベッペ・グリッロ「五つ星運動」党首


トランプ米次期大統領の誕生で、イタリアの最大野党=左派ポピュリストの「五つ星運動」が勢いづいている。党首のグリッロ氏は、「トランプ次期大統領は五つ星運動と一心同体だ、われわれも彼に続こう!」と支持者に向けて激を飛ばした。

左派の五つ星運動が、敢えて旧来の定義に従って言えば極右に属するトランプ氏に賛同し、あまつさえ一心同体とまで断言するところにイタリア政局の不思議があり、瞠目するほどの柔軟性と多様性がある。それは言葉を変えれば「混沌」ということである。

五つ星運動はポピュリストであること、反体制であること、EU(欧州連合)懐疑派である点などで確かにトランプ氏とよく似ている。トランプ氏は英国のEU離脱を歓迎するなど、欧州域外では最大の反EU主義者だ。

五つ星運動は2009年、お笑い芸人のベッペ・グリッロ氏によって創設され、2013年の総選挙で大躍進。レンツィ首相の民主党に次ぐイタリア第二の政治勢力になった。その後ローマ首長選挙で同党所属のラッジ氏が史上初の女性市長に当選するなど、時には民主党を上回る支持率で快進撃を続けている。

五つ星運動は、先ずユーロからの離脱、さらにはEU(欧州連合)からの離脱も視野に入れた国民投票の実施を政策の目玉に掲げ、12月4日にレンツィ首相主導で行われるイタリア上院の改革を問うもう一つの国民投票には強く反対している。

国民投票を否決に追い込んでレンツィ首相を退陣させ、その後の総選挙で政権を奪取して、将来は英国が行ったと同じ国民投票でイタリアをEU(欧州連合)から切り離す、というのが五つ星運動の構想である。

左派ポピュリストの五つ星運動の主張は、前述したように極右的なトランプ氏の論点に通底し、イタリアを含む欧州各国の極右勢力のそれにもぴたりと合致している。

欧州の極右勢力はトランプ大統領の登場を小躍りして喜んでいる。つまりマリーヌ・ルペン率いるフランスの国民戦線、英国のナイジェル・ファラージの独立党、ギリシャの黄金の夜明け、またオーストリア、オランダ、東欧諸国などの反移民・排外主義勢力である。

それらの政党のイタリア版が、EU(欧州連合)に反対し反移民を叫ぶ北部同盟である。北部同盟はかつては左派的な主張もする抗議政党だったが、現リーダーのサルヴィーニ書記長が就任してからは、欧州中の極右勢力との連携を強めている。

Italexiteymcisyt_400x400横150picしかしながら北部同盟はイタリアの弱小政党に過ぎない。来年春のフランス大統領選で、ひょっとするとルペン党首が当選するかもしれない、とさえ見られているフランス極右の国民戦線などの勢力とは比べるべくもない。ところがそこに五つ星運動が加わることで、イタリアのEU離脱はふいに現実味を帯び始めるのだ。

もしもイタリアがEUから抜ければ、それはEUの完全崩壊にもつながりかねない大事件になる可能性がある。イタリアは欧州政治でもまた世界政治の場でも、英国よりもはるかに小さな影響力しか持たない。G7の中でも政治経済共にほぼミソッカスの位置にいる。

イタリアの存在感は、ミソッカスではないが、英国の国民投票による離脱決定前のEUの中でもほとんど似たようなものだった。EUの中心は英独仏の3国であり、イタリアはその他大勢の中にいた、という見方もできた。

それでいながらイタリアは、EUの事実上の盟主である独仏に対抗したい英国と組んで、陰になり日向になって協力し合う関係も築いてきた。しかしBrexit(英国のEU離脱)派の勝利でその構図は崩れ去った。

Brexit派の勝利後、イタリアはEU第3のパワーになった。同時にイタリアは、英国が仲間だった頃と常に変わらずEU内の「その他大勢」の代表のような存在でもある。そんなイタリアの動静は、EUの盟主である独仏とは違う意味で影響が小さくないのである。

英国の離脱決定は、言うまでもなく、EUの結束という意味では大きな打撃だった。だが英国は、EU参加メンバーになってからも独立独歩の生き方を変えることはなく、何かにつけて特別待遇を要求するうるさい存在だった。英国参加後のEU内では、全参加国28ヵ国のうち、27ヵ国対英国、という分断の構図もしばしば表面化した。

英国以外の27カ国は、程度の差こそあれ、誰もがそのことに不満を感じていた。従って、英国のEU離脱は痛手だが、仕方がない。英国のいないEUは以前よりも増しだ、とひそかに考える向きさえあるのが現実だ。

イタリアは独仏蘭ルクセンブルクまたベルギーと共に、EUの創立国6ヶ国の一角を占め、常にそれを強く支持してきた国だ。EUへの肩入れの強さは、ぬるま湯のようだった英国のそれとはケタが違う。

英国の離脱はEUにとって大きなボディーブローだったが、イタリアの離脱は一発KOの打撃になる可能性がある。その試金石の初めが、五つ星運動が否決を目指して激しく動く、12月4日のイタリア国民投票なのである。