トランプ次期大統領の大統領としてのあり方を多くの人が予想している。それを三つにまとめるとおよそ次のようになると言っていいように思う。

1.トランプ大統領は、(大統領らしく)過激な物言いはもちろん極端な政策も修正して、普通の政治を行うだろう。

2.いやいや、彼は過激な政策や思想を公約にして当選した(選挙戦を勝ち抜いた)。当然その方向で政治を行うだろう。

3.きっとその中間だ。

それらの予想はどちらも正しく、どちらも間違っている、なぜならどの方向に向かうかは誰にも分からないからだ。

そういう不確実な事態はよくあることだが、今回の場合はトランプ仮大統領自身もおそらく先が見えていない、という意味で普通とは違う。不確実の正体は恐らくそこにある。彼の政策の行方ではなく、彼自身が何を政策にすればいいのか分かっていないのだ。

それでも、今年中なにも起こらなければトランプ大統領は必ず誕生するのだから、彼がどういう動きをするのかを占うのは「彼を監視する」意味で悪いことではない。

トランプ大統領は、米国民からも世界世論からも史上最も注視される大統領になることは間違いない。米大統領をそんな位置にもっていったことも彼の変革《チェンジ》の一つだ。

僕はトランプ大統領はより1.に近い動きをすると予想する。理由は、彼がホワイトハウスでオバマ大統領と面会した時の様子と、ライアン共和党下院議長と面会した時の態度だ。

僕はその様子をBBC国際放送で逐一見たのだが、どちらの会見でもトランプ次期大統領が借りてきた猫もビックリ、と言いたくなるほどのかしこまった物腰でいるのに驚き、失笑し、落胆した。

トランプ氏の卑屈な 態度に比べると、ホワイトハウスでは、昨日の敵を鷹揚に迎え接するオバマ大統領の人格の大きさばかりが目だった。そこでのトランプ氏を見て、彼には選挙キャンペーンで喚いた主張や思いや公約を実行する気概は無いのではないか、とさえ僕はいぶかった。

僕の疑念は、彼がポール・ライアン下院議長と国会を回り、記者会見に臨む姿を見て確信に変った。ポール・ライアン下院議長は次期大統領候補とも目されている共和党きっての実力者である。そして、彼は選挙期間中はトランプ候補と対立し、激しく攻撃したりもした。

選挙選の大詰めでは、しぶしぶトランプ候補支持を表明したものの、ぬるま湯につかったようないやいやながらの手打ちだった。

それにもかかわらずトランプ氏は、自分の息子ほどにも見える若い下院議長の前にかしこまり切って、目も合わせられないほどに恐縮している。僕はその卑屈さにオバマ大統領との会見のときをはるかに上回る驚きを覚えた。

トランプ当選者の目の前にいるのは、彼が選挙期間中ののしり続けた共和党主流派の主役の中の主役、ライアン氏である。その前に跪くトランプ氏は、将来きっと主流派に呑み込まれて主義主張を変えていくのだろう、と僕はそのとき確信にも似た思いを持った。

彼は多くの怒れる人々(白人労働者階級ばかりではない。富裕層も貧困者も黒人もヒスパニックもそしてなによりも女性でさえも)が糾弾した体制派の前に跪いている。

対抗者のヒラー・クリントン候補も属し、そしてそれゆえにトランプ候補に攻撃されて共和党支持者は言うまでもなく民主党支持者からもそっぽを向かれた、「古い政治家、古い主流派」に彼は早くも丸め込まれているように見える。それがきっとトランプ氏の正体だ。

僕のその見方がもしも当たっているならば、彼は実はチェンジなど招かなかった。ポジティブな変革は何ももたらさず、ひたすら憎しみと差別と分断のみを世界にもたらした。その意味では彼は、やはり破壊者でしかない、ということになる。