下院と同等の権限を持つ上院の改革を主な争点に、憲法改正を問うイタリアの国民投票が、ついに明日に迫った。歯車が狂えば、EU(欧州連合)の崩壊にまでつながりかねない重要な案件のポイントを、再びここで指摘しておこうと思う。

国民投票で“Yes”が勝った場合:

日本の衆議院に当たる下院と、参議院にあたる上院のうち、上院の力が大幅に縮小される。現在上院は下院と全く同等の権限を有する。そのために政治の停滞と混乱が頻繁に起こる。

上院議員の定数も315から100に削減。そうすることで議員報酬に始まる経費も大幅に減少。また自治県のボルザノとトレントを除く全国の県も廃止し、権限を中央政府に移譲する。そこでも大幅なコストの削減が見込まれる。

政府の試算では、憲法改正によって複雑な官僚組織が簡略化され、一年につき少なくとも約600億円の経費削減ができる。

レンツィ政権は懸案である教育、法制、行政組織などの抜本的な改革にただちに着手できる。憲法改正には民主党主流派と、少数の与党会派、経済界などが賛成している。

国民投票で“NO”が勝った場合:

YESを主導したレンツィ政権が倒れる。それはすぐさま欧州全体にネガティブな影響を及ぼす。ただでも不安定なイタリア政局が大揺れに揺れて、特に経済的な悪影響が広がると見られる。スイスの大手銀行はその予測を否定している。が、それは銀行のポジショントークである可能性も高い。

第2のシナリオ。レンツィ首相は退陣するものの民主党党首に留まる。そしてパドアン財務大臣を首班とする内閣を発足させる。しかし、政治の停滞と混乱を恐れる今の内閣の閣僚や大統領の要請によって、レンツィ首相が政権を担い続ける可能性も依然としてある。

第3の可能性は、レンツィ首相がやはり辞任して、政治家や政党色を廃したテクノクラート(専門家)内閣が発足すること。イタリアでは政治混乱を収束させるためにしばしばテクノクラート内閣が組閣される。英国の週刊紙エコノミストも、「テクノクラート内閣が最良の道」と主張して注目を集めた。

国民投票でNOを声高に主張しているのは反体制ポピュリストの五つ星運動、ベルルスコーニ党(FI)、極右の北部同盟などである。彼らが勝てば、Brexit(英国のEU離脱)とトランプ大統領誕生に続く今年3番目の大きな体制反対運動の勝利、という見方がある一方で、NOの勝利は「現状維持」の確認に過ぎず何も変わらない、とする意見もある。

僕はNOの勝利は「現状維持」とは程遠い大きなインパクトがあると思う。なぜならば、NOを強く推進している最大勢力の五つ星運動が勢いを得て、近い将来政権を奪取する可能性があるからだ。

五つ星運動は政権を取ると同時に、イタリアを先ずユーロから、そして最終的にはEUから離脱させる方向で動くだろう。彼らの最大の政治目標はItalexit、つまりイタリアのEU離脱だからである。

その動きには極右の北部同盟が同調し、もしかすると「国民投票NOキャンペーン」と「反レンツィ」でまとまった、ベルルスコーニ元首相率いるフォルツァ・イタリア(FI)党も賛同する可能性がある。そうなれば、イタリアのEU]離脱すなわちItalexitは容易に実現してしまうだろう。

イタリアの離脱はEUの崩壊につながりかねず、EUが崩壊すれば「トランプ米ネトウヨ・ヘイトスピーチ政権」に物申す力の一つが地上から消えて、世界は憎しみと不寛容と差別が横行する、トランプ次期大統領の頭の中と何も変わらない状況に陥るかもしれない。

そこで日本人も、「遠いイタリアの自分には無関係な国民投票」などと鎖国体制のぬるま湯に浸って傍観していないで、白人至上主義の世界では日本人も有色人種として差別される存在である真実を見据え、状況によっては、巡りめぐって自らにも十分に関係してきかねない事案に、少しは関心を持つべきである。

なお、国民投票2週間前までの世論調査では、憲法改正NOがYESを5~7ポイント上回っていた。それ以後は投票日までの2週間に渡って、調査結果の公表が禁止されるため状況は分からないが、有権者の3人に1人が意志未決定とも言われてきた。

また海外に住む400万人のイタリア人の多くが国民投票ではYESに回ると見られているが、事前の調査では彼らの動向は織り込まれてこなかったため、この部分でも「NOが優勢」という2週間前までの調査結果を無条件に信じることはできない、と考えられている。