イタリアは国民投票後のレンツィ首相辞任によって、「いつもの」政治危機に陥った。

「いつもの」とは、政局混乱や政治空白や危機はイタリアでは「ありふれたこと」だから。

マタレッラ大統領は、危機打開に向けて、辞意を表明したレンツィ首相を始めとする各政党党首や議会幹部、またナポリターノ前大統領などとも会って協議を開始した。

憲法改正案を大差の「NO票」で反故にして、勢いづくポピュリスト政党の五つ星運動と極右の北部同盟は、予想された通りただちに総選挙をするべきとして声を張り上げている。

事態が混乱すれば選挙になだれ込む可能性は否定できないが、規定では総選挙は早くても2018年までは行われない。

そこまでは議会主流派の民主党を中心とする挙国一致内閣、または政党色を払拭したテクノクラート政権などで乗り切ることが考えられている。

民主党内閣なら、欧州また世界経済への悪影響の可能性を少しでも避ける意味で、パドアン財務大臣を首班とする内閣か、党派職の薄いグラッソ上院議長の首相就任が取り沙汰されている。

また、国民投票で大敗を喫して、完全に芽がなくなったはずのレンツィ首相の再登板も噂に上り始めた。これは民主党内でのレンツィ氏の人気が、国民投票敗北後も圧倒的に高いことが理由である。

政治危機の中ではマタレッラ大統領が重要な任務を負う。イタリア大統領は普段は権限のない名誉職の色合いが強いが、議会解散権や首相任命権、また国民投票実施の権限などが与えられている。

政局が混乱した時には、大統領は政党間の調整役として動いたり、首班を指名して組閣要請を出したり、議会を解散して総選挙を行なうなどの重要な役割を果たす。

例えば2011年11月、ベルルスコーニ内閣が倒れた際には、当時のナポリター の大統領がマリオ・モンティ氏を首相に指名して、組閣要請を出した。

イタリア財政危機に端を発した政治混乱の中で、ナポリターノ大統領が見せた誠実な言動と指導力は、まるで無政府状態のように紛糾・空転するイタリア共和国を一つに繋ぎとめる効力があった。

イタリアはレンツィ首相の辞任で、しばらくは当時に勝るとも劣らない混乱に陥るだろう。首相は辞任に際して、超党派で難局を乗り切る必要があるとマタレッラ大統領に伝えたが、それは大統領も十分に承知だ。

マタレッラ大統領は組閣要請を出すために、レンツィ氏の再登板を含むあらゆる可能性を探ることになる。しかし調整が難航した場合には、議会を解散し総選挙を前倒して行う決断をするかもしれない。

影響が欧州から世界まで及ぶ可能性も高いイタリアの政治危機は、静かに、深く、確実に進行し始めた。マタレッラ大統領はその行く末に関わる重い決断を迫られている。