紅白歌合戦に言及したついでに、僕が勝手に「イタリアの紅白歌合戦」と呼んでいるサンレモ音楽祭についても少し触れておくことにした。

紅白歌合戦とサンレモ音楽祭には多くの共通点がある。両者ともに公共放送が力を入れる歌番組で、60年以上の歴史を誇る超長寿番組である。

どちらも1951年のスタート(NHKは1945年開始という説も成り立つ)。当初はNHK、RAI共にラジオでの放送だったが、NHKは1953年から又RAIは1955年からテレビ番組となった。

国民的番組の両者は、近年はマンネリ化が進んで視聴率も下がり気味だが、依然として通常番組を凌ぐ人気を維持。また付記すると、最近のRAIの番組の視聴率はNHKのそれよりも高い傾向にある。

両者ともにほとんど毎年番組の改革を試みて、たいてい不調に終わるが、不調に終わるそのこと自体が話題になってまた寿命が延びる、というような稀有な現象も起こる。

その稀有な現象自体が実は両番組の存在の大きさを如実に示している。先月の紅白歌合戦は大改革を試みて失敗した(と僕は思う)が、来月7日から始まるサンレモ音楽祭はどうだろうか。

2者はまた似て非なるものの典型でもある。両陣営は相似よりも実は差異のほうがはるかに大きい。

紅白歌合戦は既存の歌を提供する番組。一方サンレモ音楽祭は新曲を提供する。あるいは前者は歌を消費するが後者は歌を創造する。サンレモ音楽祭は音楽コンテストだからだ。

紅白歌合戦がほぼ100%日本国内のイベントであるのに大して、サンレモ音楽祭は国際的な広がりも持つ。つまり、そこでの優勝曲はグラミー賞受賞のほか、しばしば国際的なヒット曲にもなってきた。

古い名前だが、例えばジリオラ・チンクエッティの音楽祭での優勝曲は国際的にもヒットしたし、割と新しい歌手ではアンドレア・ボッチェッリなどの歌もある。個人的には1991年の大賞歌手リカルド・コッチャンテなども面白いと思う。

またサンレモ音楽祭は、欧州全体を股にかけたヨーロッパ最大の音楽番組「ユーロ・ビジョン・ソング・コンテスト」のモデルになるなど、特に欧州での知名度が高い。同時に世界的にも名を知られている。

周知のように紅白歌合戦は大晦日の一回のみの放送だが、サンレモ音楽祭は5日間にも渡って放送される。しかも一回の放送が4時間も続く。つまり紅白歌合戦が5日連続で電波に乗るようなものだ。

好きな人にはたまらないだろうが、僕などはサンレモ音楽祭のこの放送時間の膨大にウンザリするほうだ。しかも番組は毎晩夜中過ぎまで続く。宵っ張りの多いイタリアではそれでも問題にならない。

僕は紅白歌合戦とサンレモ音楽祭の根強い人気とスタッフの努力に敬意を表している。が、紅白歌合戦は日本との時差をものともせずに衛星生中継で毎年見ているものの、サンレモ音楽祭はそれほどでもない。

その大きな理由は、毎日ほぼ4時間に渡って5日間も放送される時間の長さに溜息が出るからだ。しかも翌日にまで及ぶ時間帯に対する疲労感も決して小さくない。

もう一つ僕にとっては重大な理由がある。そこで披露される歌の単調さである。カンツォーネはいわば日本の演歌だ。どれこれも似通っている。そこが時には恐ろしく退屈だ。

もちろんいい歌もある。優勝曲はさすがにどれもこれも面白いものが多い。ところがそこに至るまでの選考過程が長すぎると感じるのだ。

演歌は陳腐なメロディーに陳腐な歌詞が乗って、陳腐な歌い方の歌手が陳腐に歌うところに救いようのない退屈が作り出される場合も多い。カンツォーネも同じだ。

誤解のないように言っておきたいが、僕は演歌もカンツォーネも好きである。いや、良い演歌や良いカンツォーネが好きである。ロックもジャズもポップスも同様だ。あらゆるジャンルの歌が好きなのである。

しかし、つまらないものはすべてのジャンルを超えて、あるいはすべてのジャンルにまたがってつまらない。優れた歌は毎日毎日その辺に転がっているものではない。99%の陳腐があって1%の面白い曲がある。

サンレモ音楽祭も例外ではない。毎日4時間Ⅹ5日間、20時間にも渡って放送される番組のうちの大半が歌で埋まる。だがその90%以上は似たような歌がえんえんと続く印象で、僕にはほとんど苦痛だ。

それでもサンレモ音楽祭はりっぱに生き延びている。批判や罵倒を受けながらも多くの視聴者の支持を得ている。それは凄いことだ。僕は一視聴者としては熱心な支持者ではないが、同じテレビ屋としてサンレモ音楽祭の制作スタッフを尊敬する。

創作とは何はともあれ、「作るが勝ち」の世界だ。番組のアイデアや企画は、制作に入る前の段階で消えて行き、実際には作られないケースが圧倒的に多いからだ。一度形になった番組は、制作者にとってはそれだけで成功なのだ。

そのうえでもしも番組が長く続くなら、スタッフにとってはさらなる勝利だ。なぜなら番組が続くとは、視聴率的な成功にほかならないからだ。サンレモ音楽祭も紅白歌合戦も、その意味では連戦連勝のとてつもない番組なのである。