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2017年2月11日、5日間に渡って開催されたサンレモ音楽祭が幕を閉じた。

先日、紅白歌合戦にからめて同音楽祭のことをいろいろ言った手前、今年は頑張ってTV生中継を見ようと決めた。

しかし、いつものように挫折した。つまらぬ、好かぬ、たまらぬ、の3拍子がそろっていたのだ。「つまらぬ」のはエントリーしている楽曲。「好かぬ」のは番組の内容。「たまらぬ」のは放送時間のムチャクチャな長さである。

つまり、「いつもの理由」で、僕はサンレモ音楽祭を放送するRAIの番組視聴を貫徹することができなかった。貫徹どころか、最初は「さぁ、見るぞ」と始めたものの、たちまちウンザリしてチャンネルを替えた。

その後は「我慢して見つづけよう」と自分に言い聞かせては、やはりチャンネルを替えたり、テレビの前から立ち去ることを繰り返した。

サンレモ音楽祭は応募曲の優劣を決める音楽コンテストである。優勝曲はほぼ間違いなくイタリア国内でヒットし、欧州全体さらには世界的なヒットになる可能性もある。

それでいながら参加曲の多くが、どれも良く似た凡庸なものであるのも現実だ。カンツォーネは日本でいえば演歌(あるいは歌謡曲的な演歌)なのだから、それも仕方がない。

そこでは似たような印象のメロディー、リズム、歌詞の歌を、これまた似たような印象の歌い方をする歌手が絶唱する、というイメージである。それは僕にとっては極めて退屈だ。

もっとも演歌でなければ楽しいのか、といえば決してそうではない。演歌を「歌謡曲」や「ニューミュージック(死語?)」などを含むJ-POP(ポップス)と置き換えても事情は同じ。どのジャンルでも面白い歌は少なく、つまらない歌は盛りだくさんだ。

それらの歌の合間に、ゲストと称される有名人のダベリや、司会との掛け合い、多くがお笑い系の芸人のパフォーマンス、時の人や事物の紹介、外国人ゲストの歌やパフォーマンス等々が、これでもか、これでもかとばかりに執拗に挿入される。

実を言えば、それらの賑やかで多彩で大量のエピソードの合間に、コンテストにかけられる歌が歌われる、という方が正しい。今年はなぜか猿の着ぐるみを着たダンサーが踊りまくる演芸も加わって、例年以上に舞台が濃厚になった。

僕の個人的見解では過剰以外の何ものでもない大量の「バラエティーショー的ネタ」の合間に、陳腐な歌が次々と陳腐に上演されて行く時間の長さと、ネガティブな番組構成要素の総体は、ほとんど恐怖である。もっと言えばずばり「拷問」ですらある。

僕は前述のごとく「いつものように」我慢して番組を見ようとした。そして「いつものように」脱落した。それでも優勝曲の発表がある最終夜は、イライラしながらも懸命に見た。午後8時半に始まった番組は、途中で大量のコマーシャルを挟みつつ延々と続いた。

このコマーシャルも僕の気に触り続けた。というのも番組を流しているRAIはイタリアの公共放送局である。つまりイタリアのNHK。当然視聴料を徴収している。それでいながら大量のCMも流すのだ。きちんと視聴料を支払っている僕は普段からこのことに腹を立てている。RAIは民営化されるべき、と僕が主張する理由の一つだ。

優勝曲の発表の前にも、思わせぶりで脇道に逸れる構成が連綿と続いて、いつまでたっても結論が出ない。且つそこでもCMががんがん流される。やりきれない時間が過ぎて、ようやく優勝曲が発表された時には、日付がとっくに変わって翌日の午前1時半になっていた。

それだけでも疲れたが、もっと残念なことがあった。優勝曲が今年は良くないのだ。サンレモ音楽祭はマンネリ感満載の番組内容とエントリー曲の陳腐が退屈だが、優勝する歌はたいていいいものが多く、ひんぱんに傑作が生まれる。今年に限っては唯一の楽しみである優勝曲も凡庸でつまらない曲で終わった。

その平平とした歌の披露が済んでオンエアが完全に終わったのは1;45分だった。僕は2度とサンレモなど見ないぞ、と悪態をついていた。今後はほんとに2度と見ないつもりだ。優勝曲についてはこれまで通りチェックするとは思うけれど。

などと、呪詛の言葉を吐いているのは、全くの僕の個人的趣味である。イタリアではサンレモ音楽祭は、依然として人々の強い支持を受けている。視聴率や国民の関心度、という観点から言えば、恐らく日本における紅白歌合戦以上の、イタリアのチョー国民的番組なのである。

同番組は、今年も事前の国民の関心度や視聴率が、イタリアで1,2を争うオバケ番組であることを証明した。平均視聴率は50、7%に達し、過去12年間で最も高かった。そうはいうものの同番組は、ほとんど常に40%台後半の数字を稼ぐのだけれど。付け加えれば、今年の優勝曲発表時の瞬間視聴率は、なんと
79、5%に上った。

また年間を通しての国民の関心、という意味では「サンレモ」という語がGoogleの検索エンジンリストの第6位である事実と、音楽祭の開催期間である2月7日~11日が、文化イベント・カレンダーの重要キーワードとして、人々に意識され続けることでもその存在感の大きさが知れる。

もっとも、さらに付け加えれば、そんなオバケ番組ゆえに敵も多い。日本の紅白歌合戦に敵が多いように。僕自身に限っていえば、番組制作者たちの努力と、番組の特に舞台デザインにいつも瞠目しているファンの一人だが、番組の長さとしつこさにはほとんど敵意に近い感情さえ覚える。

しかしそれは、毎年衛星中継でしっかり見ている紅白歌合戦も同じ。紅白歌合戦は昔の2時間番組に戻したほうが僕は今の10倍くらい好きになると思う。またサンレモ音楽祭の場合は、全体が4時間程度の「1日限り」のイベントにしてくれれば、今の100倍くらいは好きになれそうな気がするのだが・・