オランダのトランプといわれる、ヘイト、いやヘルト・ウィルダース党首が率いる極右の自由党が総選挙で敗れた。寛容を国是にして移民を多く受け入れ、多文化社会を築いてきたオランダはさすがに米国とは違った。

もっともオランダの結果は、アメリカのトランプ主義が、新政権発足後につまずいて混乱している状況が影響したとも考えられ、ポピュリズムあるいは極右排外主義が完全に後退したとはお世辞にも言えない。

オランダは人口約1700万人の小国だが、移民の抱擁と寛容を重んじる国民性という意味では、欧州最強の国、という形容もできる。また移民受容国家というくくりで言うならば、ヨーロッパの米国とも呼べる国だ。

1648年にスペインから独立して以後、オランダはカトリックとプロテスタント、さらにはユダヤ教徒などが混在・共存する国になった。

異なる宗教と人々が共に住まう国家は、必然的に寛容の精神を獲得したが、国土が狭く貧しい同国は、世界中の国々との貿易によって生存を確保しなければならない事情もあった。

オランダは貿易立国という実利目的からも、さらに寛容と自由と開明の精神を広げる必要があった。そして同国はその方向に進んだ。

第2次大戦後には旧植民地のインドネシアから、また経済成長が進んだ60年代以降は、労働力として中東や北アフリカからの移民も受け入れたのがオランダである。

また経済成長期には、欧州の主に南ヨーロッパの国々からの移民も受け入れ、EU(欧州連合)が拡大した2004年以降は、東欧の旧共産主義国家からの移民も多く受け入れるようになった。

欧州の中でも、たとえばここイタリアなどとは比べものにならないほどの、移民受容と多文化主義を育んできた「大寛容」の国がオランダなのである。

そのオランダで、反イスラムや反移民、さらにはEU離脱までを叫ぶ勢力が台頭するのは、米国のトランプ主義が世界を席巻する時代とはいえ、やはり驚くべき現象だと僕には見える。

今回の選挙では極右の最大規模の躍進はとりあえず抑えられた。しかし、続いてやって来るフランス大統領選やドイツ総選挙で、トランプ主義が躍進する可能性は消えていない。

それでもオランダで極右勢力のウィルダース自由党が敗退したことは、「欧州の良心」がトランプ主義に打ち勝つ前触れ、と捉えることもできる朗報には違いない。