オランダ総選挙で躍進するのではないか、と見られていたヘルト・ウィルダース党首率いる極右の自由党は、最終的には失速して敗北とみなされる第2党にとどまった。

17世紀の独立以来、寛容と自由と移民受容を国是として発展してきたオランダにも、不寛容と排外主義と差別を旗印にする米トランプ主義の風が吹きまくっている。

その風を捉えた極右自由党ウィルダース党首は、米トランプ大統領を賞賛し、欧州の主たる極右勢力であるフランス国民戦線やイタリア北部同盟などとも連携している。

トランプ主義者の中でもウィルダース自由党党首は知恵者の趣があって、欺瞞と詭弁とペテンを駆使して選挙戦を戦い、あわや大勝利かというところまで支持を伸ばした。

彼の手法はこうだ。『オランダは寛容と自由と移民の受容を重視する国である。それが国の根幹であり、オランダ社会の規範だ。ところが今、それを揺るがす事態が起こっている』。

『それがイスラム教系移民の増大である。われわれは彼らを阻止することで、寛容と自由と人種共存というオランダの国是を守る』、というものである。

ペテン師も真っ青のその主張は、いわばこう主張するようなものだ。即ち『私は寛容な人間である。私が大嫌いなものは、そう、人種差別主義者と黒人だ』と。

あるいは、『私はオランダの自由と寛容の精神を守るために「全体主義」のイスラム教を排撃する。そう、我こそが“自由の番人”である』、と。

米トランプ大統領を首魁とする世界の反ポリコレ・差別・排外・不寛容主義者らは、全てがウィルダース氏と同じ論法を振りかざしている。が、表向きの主張には違いがある。

米トランプ大統領は、良く言えば傲慢・率直、もっと良く言えば米国人的子供っぽさで、イスラム教徒を排撃し国境に壁を作り、陰では女性器を思いのままにわしづかむ、とも豪語する。

一方、ウィルダース氏はある意味で欧州的な老獪さを発揮して、前述した邪悪な言い回しで真意を隠し、事実を隠蔽して支持を広げた。

ウィルダース氏の権謀術策は、フランスの国民戦線党首・ルペン氏にも通低するものだ。欧州の極右は、米国的な直截な言い回しよりも、歴史の重みがある邪知深い言動が得意なのだ。

それら極右政治家の思想信条は社会への脅威だが、実はそれを支持する欧米諸国民が多く存在する、という事実が真のそして最大の脅威である。

幸いオランダにはウィルダース氏の狡悪 を見破る冷静な国民が相当数存在した。4月~5月に予定されているフランス大統領選でも同じことが起こる、と信じ祈りたい。