ペルー2012年クイ料理800pic
クイの丸焼き:クスコのレストランで


ペルーは南米でもっとも観光客に人気のある国とされる。アンデス山脈、アマゾン川、ナスカの地上絵、マチュピチュなど、など・・ペルーには魅惑的な観光スポットが数多くある。

そのぺルーを旅した時の話。旅では標高約5千メートルの峠越え3回を含む、
3700メートル付近の高山地帯を主に移動した。

目がくらむほどに深い渓谷を車窓真下に見る、死と隣り合わせの険しい道のりと、観光客の行かない高山地帯の村々や人々の暮らしは、見るもの聞くものの全てが新鮮で大いに興奮した。

その中でもクイと呼ばれる「ペルーの豚」料理が特に面白かった。面白かったというのは実は言葉のあやで、僕は「ペルーの豚」料理に閉口した。

ペルーには2種類の豚がいる。一つは誰もが知っている普通の豚。山中の村では豚舎ではなく道路などで放し飼いにされている。これはとてもおどろきだった。

でももう一種の豚はもっとおどろきである。それは普通の子豚よりもずっと小さな豚で、ここイタリアを含む欧米で「ギニア(西アフリカ)の豚」とか「チビ豚」また「インド豚」などとも称される。

ペルーでは「クイ」と呼ばれ、それの丸焼き料理がよく食べられる。つまりそれが「ペルーの豚」料理である。レストランなどでも正式メニューとして当たり前に提供されている。

クイは見た目は体がずんぐりしていて頭が大きく、確かに極小の豚のようでもある。だがクイは本当は豚ではなく、モルモットのことだ。日本語では天竺鼠とも言う。

僕はクイの丸焼き料理がどうしても食べられなかった。天竺鼠の「ネズミ」という先入観が邪魔をして、とても口に入れる気になれないのだった。

クイの丸焼きの見た目はウサギである。イタリアでよく食べられるウサギも、実は僕は長い間食べることができなかった。が、郷に入らば郷に従え、と自分に言い聞かせて何とか食べられるようになった。

ウサギ肉は、自ら望んで「食べたい」という思いには今もならないが、提供されたら食べる。クイもそのつもりでいた。しかしモルモットでありネズミであるという思いが先にたってどうしてもだめなのだった。

実を言うと僕がクイを食べられなかったのは、ネズミという先入観が全てではない。僕が田舎者であることが真の理由なのだろうと思う。

誤解を恐れずに言えば、田舎の人というのは新しい食べ物を受けつけない傾向がある。いわゆる田舎者の保守体質である。

日本でもそうだが、ここイタリアでも田舎の人たちは、たとえば僕が日本から土産で持ち込む食べ物を喜ばないことが多い。悪気があるのではなく、彼らは食の冒険を好まないのだ。

生まれが大いなる田舎者の僕は、イタリアに来て丸2年間生ハムを口にしなかった。それが生肉だと初めに告げられたのが原因だった。ウサギ肉どころの話ではなかったのだ。

イタリアでは生ハムは、ほぼ毎日と言っても良いくらいにひんぱんに食卓に供される食物である。2年後に思い切って食べてみた。以来、今では生ハムのない食卓は考えもつかない。

ウサギを食べられるようになったのは、生ハムのエピソードからさらに10年以上も経ってからのことだ。僕はそんな具合に田舎者にありがちなやっかいな食習慣を持っている。

日本のド田舎を出て、ついには日本という祖国も飛び出して外国に住んでいる身としては、この「食の保守性」というか偏向性はちょっとまずい性癖だ。世界の食は多様過ぎるほど多様なのだから。

それは良く分っているのだが、その面倒くさい性分は、標高が富士山よりはるかに高いアンデス山中でも変わることはなかった。

変わるどころか、土地の珍味を食べなくても別に死にはしない、と開き直っている自分がいた。まさに田舎者の保守性丸出しだったのである。