マクロン&ルペン400pic


フランス大統領選の第1回投票は、ほぼ事前の予測どおりマクロン氏とルペン氏が勝った。得票率も事前の統計通りだった。あっけないほどの正しさで世論調査結果が当たった。その意味では米大統領選挙とは全く様相が違った。

予想が当たった欧米の各メディアは安心したのか、これまたかねてからの論調である「マクロンの大差での勝利」を予測する報告を嬉々として開陳している。接戦を予測する者はほとんど見られず、ルペン勝利を予想する者は僕が知る限り皆無だ。

第一回目投票と同様に、実は僕もそれらの見方とほぼ同じだ。そして再び、第一回目と同じように密かな懐疑も胸に抱いている。その疑念は第一回目の時よりもはるかに強い。安心感は選挙では得てして敗北につながる。マクロン勝利を規定路線のようにみなすのは、陥穽を招く油断に至る可能性がある。

極右のルペン候補が決選投票に進むであろうことは十分に予測されていた。そして決戦投票では誰が彼女の相手であろうが、その対立候補が最終勝利する、というのがほぼ一致した見方だった。たとえ出遅れた感のあった極左のメランション候補が相手になった場合でさえ、6:4の得票率でルペン候補が負ける、というのが大方の意見だったのだ。

その意味では、ルペン候補に最も強いと考えられてきたマクロン候補が決戦投票に進むのだから、勝利は間違いないと断定してもおかしくはない。たとえ5月7日の投票日までに、ルペン候補を利するあらたなテロなどが起きても、大勢には影響がないだろうと見られている。

そればかりではない。敗北を認めたフィヨン候補、政権与党のアモン候補 、またオランド大統領と複数の閣僚経験者、政界の重鎮などもマクロン候補への支持を表明している。彼らの中にはマクロン候補の積極的な支持者ではないが、「極右のルペンを阻止する」ために、と明言してマクロン支持を訴える者も多いのである。

フランスは極右のルペン候補が大躍進した「異常事態」を容認した上で、「ルペン阻止」で大同団結しつつあるように見える。米英を席巻したポピュリズムの大波は、イタリアも飲み込んで(国民投票)殺到したが、オーストリア(大統領選挙)とオランダ(総選挙)の海で勢いを殺がれて、フランス(大統領選)でようやく力尽きたのかもしれない。そうであってほしいものである。

だが、楽観はできない要素も多くある、と僕はゲンを担ぐのではなく思う。理由がいくつかある。

一つ、第一回投票で敗退した2候補やオランド大統領など、多くのフランス政界の「主流派」がマクロン支持を表明したが、彼らに従う有権者の割合は不明だ。現状に不満を持つ若者や貧困層などが反発し、逆にマクロン候補を見放してルペン氏に流れる可能性も高い。

それを裏付けるように、第一回投票で敗退した急進左派のメランション候補はマクロン支持は打ち出さず、支持者に自主投票を呼びかけている。彼はルペン候補同様に反EU主義者であり、米大統領選挙における民主党サンダース候補に似て若者層の不満の受け皿となった。格差の是正も呼びかけて支持を広げた。彼に投票した有権者が大量にルペン候補支持に回る可能性もある。

二つ、ルペン候補が強く敵視しているフランスのイスラム教徒は、実はルペン大統領誕生をそれほど怖れてはいない、という耳を疑うような情報もある。それというのも、フランス全土に400万人~600万人いるとされるイスラム教徒は、大統領候補の全員がルペン氏と同じかそれ以上に反イスラムだと見なしているからだ。誰が大統領になっても同じ、というわけだ。

また多くのムスリムは、ムスリム以外の多くのフランス人と同様に、国家から見捨てられていると感じていて、やはり誰が大統領になっても自らには関係ない、と感じているからだ。たとえば前回2012年の大統領選では、ムスリムの86%が現職のオランド大統領に投票したが、彼らのほとんどには何の見返りもなく、今ではオランド大統領に裏切られたと感じている。

ルペン氏はたとえ大統領になっても、フランスの憲法と政敵に阻まれて、彼女が目指す政策を全て実行することはできない。国民戦線は間違っても議会で多数派になることはできないだろうから、彼女の権限は制限される。たとえばムスリム女性のスカーフをルペン大統領が法律で公共の場から剥ぎ取ろうとしても、反対勢力によって阻止される可能性が非常に高い。

また彼女は党首になって以来、党のイメージを高める努力をしてきて、それはイスラム教徒の意見にも良い影響を与えている。それどころか、ルペン候補を積極的に押すイスラム教徒さえいる。なぜなら多くのイスラム教徒は彼女と同様に「イスラム過激派」を憎んでいて、それを排撃しようとする彼女に賛同している。さらに彼女が同性結婚を禁止したい、と願っていることに共感するムスリムも少なからずいる。

三つ、ムスリムと同じように、ルペン候補に疎まれているはずの同性愛者たちの中にも、彼女に投票すると表明している者が相当数いる。彼らはルペン候補の主張が、LGBTを嫌う国民戦線支持者に向けてのポーズであり、実際の彼女はそれほど反LGBT主義者ではないと考えているのだ。またLGBTの中には「敵の敵は味方」の論法で、「LGBTを嫌うムスリム嫌いのルペン」は自分たちの味方、と信じてルペン候補を支持する者もいるのである。

そのように分断されたフランス社会の内実は複雑だ。決戦投票はマクロン氏の圧勝、と単純に片付けるのは極めて危険だ。世論調査の数字が正しいことを祈りつつ、僕は第一回投票の時のように固唾を呑む思いで、フランスの選挙戦を注視している。

ここまで書いたところで一つの朗報を知った。

ルペン候補が国民戦線党首を辞める、と表明したのだ。それは彼女が、党よりも国全体を重視していると示すことで 、極右思想に反感を持つ人々を自らの側に取り込もうとするポーズなのだろう。欺瞞にしか見えない姑息な言動は、彼女に有利どころか、逆に不利に働くだけではないかと思うのだが。。。