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民主党党首選の3候補。左からオルランド、レンツィ、エミリアーノ各氏


イタリア政権与党の民主党党首選が昨日行われ、即日開票の結果マッテオ・レンツィ前首相が勝利。レンツィ氏は投票総数約200万人のうちのおよそ73%を獲得。圧勝と言っても良いだろう。

レンツィ氏はイタリア政界に彗星のように現れて39歳の若さで首相に就任。トップに上り詰めた速さと同じ程度のスピードでその座から転がり落ちた。

2016年12月、彼の最大の政治目標だった上院改革・憲法改正を問う国民投票に於いて、自らを過信する余り「私を取るか否か」と国民に呼びかけて反感を買い、失脚したのだ。

それでも彼は民主党書記長に留まっていたが、今年2月19日に辞任。昨日の第4回イタリア民主党書記長選挙で再び民主党党首に選出された。

レンツィ氏は昨年12月の国民投票の不手際や、今年2月の民主党分裂騒動での責任問題にも拘わらず、同党で最も力のある政治家であることをあらためて証明した形だ。

民主党が分裂した責任は、その直前まで書記長だったレンツィ氏にもある。彼は党を去ったダレマ元首相やベルサーニ元党首らを「少数派の独裁者」と断罪した。

ダレマ元首相は特に奸物のイメージが強いことは確かだが、レンツィ氏はリーダーシップを発揮して党をまとめるべきだった。どっちもどっちなのである。

イタリア民主党の内部騒動が激しいのは、日本の民主党と同様に寄せ集めの集団だからだ。旧共産党系と旧キリスト教民主主義勢力左派などが合流したのが民主党だ。

イタリア民主党は、党名を民主党から民進党に変えて再生を試みる姑息な「日本民主党」ほど愚かではないが、お家騒動を繰り返す同党を国民の一部がいつもマユツバで見ているのも現実である。

レンツィ新党首は今後、首相返り咲きを目指して遮二無二突き進むだろう。なぜなら彼はいつもそうしてきたからだ。それが彼の持ち味であり強い反感を買う特徴でもある。

「壊し屋」とも呼ばれる、他者を強引に押しのけて猛進するレンツィ氏の政治手腕は、現在支持率トップにいるポピュリスト政党「五つ星運動」の勢いをあるいは止めるかもしれない。

イタリアのユーロ離脱を主張し、将来のEU離脱も見据えている「五つ星運動」は、米トランプ主義やBrexit推進派、またフランスの国民戦線などと同じ民衆扇動に長けた勢力だ。

「五つ星運動」は、レンツィ失脚の引き金となった国民投票や、民主党のお家騒動などをうまく捉えて支持率を伸ばし、今では政権与党に最大8ポイントの差をつけている。

民主党が沈んだ原因の多くはレンツィ氏自身にある。その当事者が失地回復を目指すシナリオは面妖だ。だが彼以外にはその能力を持つ者がいないらしいのも、またイタリア政界の現実だ。

レンツィ氏は党首選挙戦中に、将来連立政権を樹立する場合には、民主党を割って出たダレマ前首相やベルサーニ元党首らとは手を組まず、政敵のベルルスコーニ派と話し合うと示唆した。

元仲間を断罪する彼の厳しい姿勢は、その仲間が党を去った遠因にもなっている横暴な手法、という指摘も良くなされる。またなり振り構わずに政敵とも手を握るのがレンツィ氏の常套手段だ。

彼はそうした政治手腕を巧みに繰り出して首相の座に就き、その政治手腕に裏切られてその地位から陥落した。そして同じ手法でまた権力の掌握を目指そうとしている。

彼の力量の善し悪しや、好き嫌いの感情を語れば異論は尽きない。が、ポピュリズムの勢いを殺ぎ、EU(欧州連合)の安定と結束を最重視する立場では、僕はレンツィ氏に期待をしたい。

レンツィ氏が徹底したEU信奉者であることは心強い事だ。フランス大統領選で親EUのマクロン候補が勝てば、ひるがえってレンツィ氏に有利な風が吹く可能性もある。

マクロン氏の勝利はさらに、9月のドイツの総選挙でメルケル首相を後押しし、親EU政権が次々に生まれる可能性も高める。

イギリスのEU離脱が決まってしまった今、独仏伊のEU3大国が結束することはEUの将来にとっては極めて重要である。レンツィ氏の書記長当選がその第一歩であることを祈りたい。